人事労務の担当範囲は意外と広く、業務によって向き不向きがあります。

人事労務の仕事は、基本的に会社の下支えです。メディアなどに顔を出し、華々しい活躍を見せている「人事」の方は、いわば「採用人事」にかかわる人たち。会社のイメージと知名度を上げ、いい人材を確保したいという人事戦略にのっとっての行動ですから、同じ人事領域でも労務管理を行う人とは違う業務を担っていると考えてください。

そこで今回は、人事と労務の違いと、労務管理に向いているのはどのようなタイプなのかを紐解いてみたいと思います。

こんなに違う!人事と労務の業務

人事と労務は混同されがちですが、これは大企業でもない限り、人事労務として同一人物が担当するケースが多いためです。それぞれの特徴と違いは次のとおりです。

人事

人事は、人材の採用や育成、評価、異動、昇進、転勤などを担当しています。社外にも目を向け、企業の評価が高まるよう慎重に人事業務を行う必要があるため、裏方仕事とはいえません。最近では、企業ブランディングを重視した企画立案や制度の導入なども求められています。

労務

労務は、労働環境や福利厚生の管理などを行います。全ての従業員が働きやすい環境を作るために行動します。裏方の仕事ではありますが、労務管理ができていない会社は従業員のモチベーションが低く、離職率も高くなるため重要な仕事といえるでしょう。

手続きだけではない、労務の主な業務4つ

労務と言えば、社会保険や雇用保険などの手続きだけをしているイメージを持つ方もいるでしょう。実際には、複雑なトラブルの相談や解決などを受けており、裏から企業から支えています。どのような業務があるのか詳しくご紹介します。

業務①入社と退職の手続き

入社と退社時には、雇用保険や社会保険など様々な手続きが必要です。その他、会社によっては独自の福利厚生を導入しており、さらに多くの手続きが必要となります。従業員ごとに適切に保険を適用し、働く環境を整えます。

業務②給与計算

従業員ごとの給与を計算するのも労務の仕事です。基本給や残業手当、役職手当、法定控除などを適用し、1円単位で正確に給与計算しなければなりません。法律に基づき、正しく控除額を計算するなど、きめ細かな作業が求められます。場合によっては、社会保険労務士や代行サービスに外注しますが、コストがかかります。

業務③安全衛生管理

安全で快適な環境で働けるように、労働安全衛生法に基づいた安全衛生管理を行います。現場の状況を把握するだけではなく、健康診断を定期的に実施します。健康診断の結果をもとに医師から意見を聞き、従業員に通知したり、必要に応じて保険指導をしたりと、従業員の健康を守るための重要な業務です。

ストレス社会と呼ばれる現代では、ストレスチェック制度の導入が欠かせません。産業医と面談できる体制を整えるなど、従業員の自主的な健康管理もサポートします。

業務④労務トラブル相談

労働基準法に基づいた労働時間を守っていても、現場の上司がサービス残業を強要したり、ハラスメントなどの問題を起こしたりする場合があります。従業員は、上司の命令に逆らえず、ストレスを溜めていってしまいます。その相談窓口として、労務トラブル相談を受けるのです。相談の内容によっては上司にヒアリングを行い、他の部署へ異動させたり、就業規則に基づいて罰則を与えたりします。

労務管理に向いている人の特徴6つ

労務管理は、事務仕事で楽なイメージを持たれる場合もありますが、明確に向き不向きがあります。労務管理には、次のような人が向いているでしょう。

特徴①コツコツと作業をこなせる人

給与計算や諸手続きなど、コツコツとした作業をこなせる人に向いています。営業のようなアプローチの工夫は必要ありませんが、同じ作業を繰り返すことには根気が必要です。面白さを見出すことが難しい業務でもあるため、人とは違う業務を希望する方には向かないと言えます。

特徴②コミュニケーション能力が高い人

労務は事務仕事だけではなく、労務トラブル相談も受けるため、コミュニケーション能力が求められます。状況を整理して、わかりやすくまとめたうえで、責任の所在を明確にします。そのうえで、トラブルの内容を審査し、誰にどのような処分を与えるのか、口頭の注意で済ますのかなどを決めるのです。

トラブルを起こした人物の反省の状況によって対応を変えるなど、臨機応変かつ人の気持ちを考える姿勢が求められます。

特徴③法律を重んじる姿勢が強い人

労務は、法律を重んじる姿勢が強くなければ務まりません。例えば、労務トラブル相談を受けても、法律違反であっても上司の命令に従うべきなどと言えば、従業員が退職したり訴訟を起こしたりするリスクが高まります。そうなれば、会社全体の問題として世間に取り上げられ、株価暴落やイメージダウン、業績低迷などに繋がるでしょう。

最後の砦として、会社と従業員の利益を守るために業務を遂行する必要があります。

特徴④社労士へのキャリアアップを目指す人

将来、社労士へのキャリアアップを目指す人にとって、労務は経験を積む良い機会です。未経験で社労士の資格を取ることも可能ですが、スキルに大きな差が生じます。そのため、社労士を目指す場合は、まず企業の労務担当として経験を積むことが大切です。

特徴⑤仕事とプライベートでメリハリをつけられる人

労務トラブル相談を受けることで、感情移入してしまい、ストレスが溜まる場合があります。感情移入は仕方のないことですが、休日もトラブルについて考えてしまい、ストレスを解消できる場がなくなるケースがあるのです。そのため、仕事とプライベートでメリハリをつけられる人が向いています。

特徴⑥思いやりのある人

従業員にとって労務担当者は、トラブルに見舞われた自分を助けてくれる唯一の理解者です。その理解者が雑な対応をすると、従業員は追い詰められてしまいます。そのため、思いやりをもってトラブル解決に向けて行動できる人が向いています。

以上が労務に向いている人ですが、向いていなくても、経験を積むことで要領がわかり、うまく業務を遂行できるようになる場合もあります。

これからの労務

これまでの労務は、単に入社や退職の手続きをこなしていればいいとされていました。しかし、働き方改革による従業員の労働環境改善や副業解禁などを受け、単なる手続きをする人では会社と従業員の役に立てない時代へと向かっています。

「いい会社」と呼ばれるためには、労務トラブルのない安全衛生管理に優れた環境づくりが必要です。労務管理の質が上がれば、良い人材が集まり、会社の収益や安定性が高まります。労務の担当となったからには、会社の未来を見据え、より良い会社づくりのために行動することが大切です。

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