各業界で、新型コロナ流行による業務縮小が続いています。会社都合での休みが発生したときは、休業手当を支払う必要が出てきますが、その休業手当の計算が正しくできていないケースがとても多く見受けられます。
【雇用調整助成金の申請のためにこの記事をお読みの方へ】
混同しやすいので注意が必要ですが、雇用調整助成金(緊急雇用安定助成金)を取得し、この記事の計算方法で出した金額で休業手当を支払ってしまうと、事後の調整が発生する可能性があります。雇用調整助成金では、労働者代表と結ぶ休業協定書の内容に従って休業手当を出す必要があります。ただしその金額と、この記事で解説する平均賃金の金額の差によってどちらを採用するかが変わることもあるため、両方の計算方法についての知識が求められます。
休業手当の基礎となる平均賃金
雇用調整助成金以外の休業手当計算の基礎となる平均賃金には、計算方法が2パターンあります。ややこしいため誤った計算をしてしまいがちですが、平均賃金が間違っていると、休業手当に「余計に支払う・払い足りない」という過不足が出てしまいます。そこでまずは、平均賃金を正しく計算する必要があります。
平均賃金とは
平均賃金は、休業手当や解雇予告手当の支払いなどが必要になったときに使われます。計算方法は労働基準法で定められており、従業員の生活を保障して、「人間らしい生活ができる賃金」の支払いを目的にしています。そのため、欠勤で使用する1日あたりの賃金とは計算が異なります。たとえば月給22万円、所定労働日数22日の社員の平均賃金は、1万円ではないため、注意が必要です。
平均賃金はどんなときに計算するの?
以下の労務管理業務で、平均賃金の計算が必要になります。
・休業手当(平均賃金の6割以上)
・解雇予告手当(平均賃金の30日分など)
・減給処分手当(1日の減給は平均賃金の半分、1か月の減給の総額は給与の総額の10分の1まで)
・年次有給休暇(平均賃金で支払うとき)
・労災(業務上)の休業補償(1日につき平均賃金を支払う)
平均賃金の計算方法
平均賃金の計算は、以下①②の計算式
①3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の暦日数
②3か月間の賃金の総額÷3か月間の労働日数✕60%
で計算された金額の、高い方を採用します。詳細は以下で説明します。
3か月間の賃金の総額とは?
平均賃金の計算では、毎月、給与日に支払われている賃金すべて(交通費、歩合給、残業代、皆勤手当など含む)が対象となります。ただし、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与などは含みません。
3か月間の暦日数とは?
暦日数は、休日や休暇も含めたカレンダー上の日数です(1月は31日、6月は30日など)。ただし、以下の期間は「暦日数」から引かれます。
会社が休業した期間 / 業務上の労災で休業した期間 / 産前産後の休業した期間 / 育児・介護休業期間 / 試用期間(入社日から14日間)
平均賃金の計算方法 詳細
平均賃金の計算には、平均賃金を計算しないといけない日の前日からさかのぼって、直近の賃金の締切日から3か月間の給与を用います。
前述の通り、平均賃金は
①3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の暦日数
②3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の労働日数✕60%
で計算された金額の、高い方を採用します。ただし、欠勤や遅刻早退をしても給与を控除しない月給制を取っているときは①のみで計算します。(また、日雇労働者は除いています)
例:会社が休業して休業手当(平均賃金の60%)を支払うときの、平均賃金の計算方法
※休業手当は、会社の出勤予定日のみ支払います。
※月給制と、月給制以外の2パターンについて解説します。
A:月給制の場合
前提:月給が22万円で、賃金の締切日が末日。3月1日~10日(内出勤予定日:3月2~6日、10日の6日間)に会社が休業したケース
月 | 暦日数 | 労働日数 | 給与 |
12月 | 31日 | 20日 | 22万+残業代1万 |
1月 | 31日 | 21日 | 22万+残業代2万 |
2月 | 29日 | 22日 | 22万+残業代4万 |
①3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の暦日数
→(23万+24万+26万)÷(31日+31日+29日)= 8021.97※小数点第3位を切り捨て
②3か月間の賃金の総額÷3か月間の労働日数✕60%
→(23万+24万+26万)÷(20日+21日+22日)×60%=6952.38※小数点第3位を切り捨て
よって、平均賃金は8021.97円(①を採用)
休業手当では、平均賃金の60%を支払うため、
休業日数6日間✕8021.97円✕60%=休業手当は28,879円 ※小数点第1位以下は四捨五入
という計算式になります。
B:月給制以外の場合
前提:時給が1,000円で、1日5時間勤務。賃金締切日が末日。3月1日~10日(3月1日~10日の間で出勤予定日が3月2、3、5、6日の4日間)に会社が休業したケース
月 | 暦日数 | 労働日数 | 給与 |
12月 | 31日 | 16日 | 8万円 |
1月 | 31日 | 18日 | 9万円 |
2月 | 29日 | 17日 | 8.5万円 |
①3か月間の賃金の総額 ÷ 3か月間の暦日数
→(8万+9万+8.5万)÷(31日+31日+29日)= 2802.19※小数点第3位を切り捨て
②3か月間の賃金の総額÷3か月間の労働日数✕60%
→(8万+9万+8.5万)÷(16日+18日+17日)×60%=3000
よって、平均賃金は3,000円(②を採用)
休業手当では、平均賃金の60%を支払うため、
休業日数4日間✕3,000円✕60%=休業手当は7,200円
という計算式になります。
平均賃金を計算するためのエクセルシートです。お役立てください。
よくある質問
Q:入社して2週間未満の社員がいます。平均賃金をどのように計算しますか?
2パターンあります。
パターン①入社してからすべて出勤しているとき
その期間に支払われる賃金÷その期間の暦日数✕6/7
例:4月1日入社の場合
出勤日:4月1~3、6~10日/ 暦日数:10日
4月1日~10日の賃金:90,000円
90,000円÷10日✕6/7=7714.28円
平均賃金は、7714.28円となります。
パターン②入社してから欠勤や遅刻早退控除があるとき
平均賃金の計算で使う賃金が短時間勤務や長時間勤務などで通常の勤務とは異なるとき、過去に同種の業務(経験など含む)についていた従業員の労働時間数や、予定されていた労働時間数で勤務したとして支払われる賃金をベースに計算を行います。労働契約であらかじめ1か月の賃金が決まっていればその賃金で計算してもかまいません。
Q:入社して2週間以上3か月未満です。どのように計算しますか?
2パターンあります。
パターン①丸1か月在籍していた(日割りなどをしていない)給与計算期間がある
締め日から次の締め日まですべて在籍している月があるときは、その1か月または2か月で以下の式により計算します。
(以下のABのどちらか高い方)
A:その月の賃金の総額÷その月の労働日数✕60%
B:その月の賃金の総額÷その月の暦日数
パターン②丸1か月在籍していた(日割りなどをしていない)給与計算期間がない
月途中で入社したなどで、1か月単位の計算ができないときは、入社日から平均賃金を計算しないといけなくなった日までの賃金の総額をの期間で計算します。
(以下のABのどちらか高い方)
A:賃金の総額÷労働日数✕60%
B:賃金の総額÷暦日数
まとめ
新型コロナの流行で、会社も社員も大きなリスクにさらされています。しかしこの局面だからこそ、雇用を守るための行動が大切です。正しい休業手当の支払いは、社員の安全と、信頼確保に役立ちます。会社の財源不足については、雇用調整助成金等が活用できます。アフターコロナを見据え、柔軟に対応できる会社を育てておきましょう。