2020年4月、民法の改正によって、「身元保証書」の取り扱いが大きく変わります。身元保証書は、民法によって定められた、「企業と身元保証人との契約」。今は単なる緊急連絡先のように扱われていますが、実は法的効力をもつ、れっきとした契約です。

これまでは、賠償額を決めずに身元保証契約ができました。しかし2020年4月からは、賠償額の上限を決める必要がでてきます。まだあまり知られていない法改正ですが、採用にかかわる人事労務担当者は知っておくべき情報です。


この記事内に出てくる書式が、こちらからフリーダウンロードできます(Wordファイル)

①身元保証書(身元保証人→企業へ提出)

②身元保証書について(企業→身元保証人への説明書類)

③緊急連絡先報告書(身元保証書を取らない場合に使用)

①②はセットでお使いください。③は、身元保証書を取らない場合、緊急時の連絡先を知っておくために使用します。入社する本人の記載でも構いませんが、確実に連絡が取れる必要があるため、緊急連絡先の相手に書いてもらう・企業で確認を取るなどをおすすめします。


身元保証人って何を保証する人?

雇用契約を結ぶときに提出してもらう身元保証書は、

1:採用者の身元がはっきりしていることの証明
2:会社人として適正があるという証明
3:損害が発生したときに、連帯して損害賠償をしてもらう存在の証明

として使われます。現状は1の意味合いで扱われてることがほとんどですが、賠償が発生したときは、身元保証人が連帯して賠償する責任を負います。

ただし身元保証書は法的な書類ではありません。提出を求めない企業もあります。

あやふやなまま運用されている、賠償金

しかし、身元保証書を提出してもらっている企業も、今一度、管理している書面を確認してください。恐らく以下のような文言があるはずです。


「万一本人が貴社の就業規則および諸規則を遵守せず、もしくは規律を乱し、故意又は重大な過失により貴社に損害を与えた場合は、本人にその責任をとらせるとともに、身元保証人として本人と連帯して誠実に賠償の責任を負うことを誓約いたします」


この文言には、「賠償の連帯責任を負う」とまでは書かれていますが、その金額は記載されていません。つまり、本当にその従業員が賠償責任を負ったとしても、身元保証人に賠償額をいくら請求できるか、あやふやなままになっているのです。

多くの会社では、「何かのときに…」「念のため…」ぐらいの感覚で身元保証契約を交わしており、制度が形骸化しているのが実態です。提出する本人も、その重要性や義務範囲を理解していないことが、ほとんどでしょう。

何が変わる? どうしたらいい?

2020年4月からは、身元保証人の賠償額の上限を決めないといけません。つまり、企業と身元保証人の間で、賠償額の合意が必要になるのです。

今後、上限の記載のない身元保証書は、その契約自体が無効になります。

身元保証書の取り扱いの変更は、2020年4月入社の従業員から対応が必要です。企業としての対応は、以下の2つのパターンのどれかになるでしょう。

①賠償額の上限を記載する運用に変更する
②身元保証人の制度を廃止する

①にするのがスムーズではありますが、身元保証人の制度をやめるというのもひとつの選択です。制度をやめたときでも緊急時に連絡が取れるように、緊急連絡先(文頭ダウンロード資料③)の取得をおすすめします。

この法改正を「身元保証人は、本当に必要なのか?」「身元保証書を提出させる目的は?」など、根本的な部分を見直してみる機会にしてはいかがでしょうか。

賠償額はどうすればいい?

「賠償の上限額を記載する」と決めた場合、その金額はどう決めるべきでしょう。

上限額は法律では決まっておらず、企業側で自由に設定できます。極論ですが「1億円」と身元保証書に記載することも可能なのです。しかし、あまりに高額だと、当然ながら入社時の身元保証人を探すのが難しくなります。

とはいえ10〜20万円程度の少額だと、「そもそも身元保証をしてもらう必要があるのか?」という疑問も出てきますね。100〜200万円、もしくは月給の◯月分など、支払いが可能で、かつ少額すぎない、現実味のある金額にする必要があるでしょう。

高額・少額のどちらにしても、賠償額が明確に記載されるため、身元保証人に「どのようなときに請求されるのか」「どのようなときに契約解除できるのか」などを説明する必要がでてきます。

現状は、企業が保証人にその説明をしているケースはほぼないと思われます。しかし、今後は双方のリスク回避のためにも、説明があった方がよいでしょう。対面で行うのは難しいでしょうから、「責任範囲と契約解除」についての書面を用意し、身元保証人に渡す運用に変更することをおすすめします。(文頭ダウンロード資料②)

賠償額は企業の言い値ではない

企業としては、「損害を起こした本人が悪いのだから、限度額まできっちり支払ってもらう」といいたいケースもあるでしょうが、企業の定めた金額が必ず支払われるわけではありません。本人に支払い能力がなく、身元保証人が賠償するときの賠償額は、最終的には裁判所が以下をみて総合判断します。

・身元保証人になった経緯
・身元保証人が、本人の仕事場所や内容を把握していたか?
・企業側の監督責任
・企業と従業員の過失割合など

仕事の内容などに変更があったときは、身元保証人に通知する必要があります。

たとえば「内勤で採用した人が、工場勤務になった」などのケースでは、リスクが大きく変わるためです。また最近の企業における損害賠償は、個人情報の流出や、データの管理ミスなど、情報系が多いのも特徴。損害賠償は決して「モノを壊した」だけにはとどまらないため、身元保証人への説明が今まで以上に必要となるのです。

身元保証の任期や資格

身元保証には以下の任期が定まっています。

・就業規則に期間の定めがないときは、3年
・期間の定めがあっても、最長5年

身元保証人の資格は、特に必要ありません。企業で決めることができ、一般的に多いのはご両親・配偶者です。また、2020年4月以降、賠償額を決めて身元保証契約を結ぶときは、できるだけ支払い能力がある方にしておくことをオススメします。

会社のやることまとめ

企業が従業員に賠償請求をするような事態は、ないに越したことはありません。しかし万が一のトラブル時に、さらなる揉め事をつくらないためにも、「身元保証制度をつかう」と決めたなら形骸化させないようにしてください。

2020年4月までに企業側にできることは、


①身元保証制度を見直してみる
②賠償額の上限額設定をするかどうか、検討する
③身元保証人への説明書を作成する
④採用時に正しく運用する


という4つのステップです。

※今までに取得した身元保証書を、改めて取り直す必要はありません。

「賠償責任」という言葉には、ネガティブなイメージがつきまといます。企業側としてはリスク回避のために、提出して欲しいという気持ちはあるはずです。身元保証制度の活用のメリット・デメリットを再考し、民法改正に合わせた正しい運用を心がけてください。そのうえで、従業員との信頼関係を保ち、双方が気持ちよく雇用関係を結べるのが、ベストでしょう。

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