2020年は、年初には考えもしなかった1年になりました。現在がアフターコロナなのか、ウィズコロナなのかもまだ明確ではありません。確かなのは、新型コロナウイルス流行が私たちの働き方を大きく変えてしまったということです。
新型コロナによって人と人の接触が制限されたため、これまで保守的だった会社も変化せざるを得ませんでした。その結果、働き方だけではなく、人の意識も大きく変わっていきました。
コロナで変わったワーキングシーン7つ
客先を訪問して間関係をつくるところから始まっていた営業も、パソコン上での営業がレギュラーになりつつあります。付随して、データを社内サーバからクラウドへと移行する会社が急増。自粛要請期間中は、書類管理や押印のためだけに出社するケースが非難され、ペーパーレス・印鑑レスも急激に進みました。セミナーや飲み会もWEB上での開催が当たり前となり、大きな社会変化がもたらされました。
上記の変化は、働く側にとってはおおむねポジティブなものが多いでしょう。しかし「会社運営」「労務管理」という側面から見るとトラブルの温床にもなり得ます。実際、すでに各所で労務トラブルの芽は生まれているといって過言ではありません。
アフターコロナの労務トラブル、4つの火種
ワーキングシーンの変化から生まれた労務トラブルの火種は、今は目に見えなくても、いずれ必ず炎上します。どれもコロナ流行がなければ火が着かなかったものばかりです。そして、先を見越してさっさと火消しを行っている会社も多くあります。
「そのうち何とかしよう」「そんなに大事ではないだろう」では、会社の存続にかかわるトラブルに発展しかねません。ひとつひとつ、スピーディーに対策を取る必要があるでしょう。
連載「アフターコロナの会社の守り方」第3弾は、解雇についてです。
雇用の現場を直撃したコロナ
2020年11月初旬、雇止めが70,000人を超えたというニュースが世を騒がせました。うっすら予想されていた「解雇は増え続けるだろう」ということが、数字ではっきり見えたわけです。
雇用調整助成金により、解雇はまだ抑えられていますが、雇用調整助成金の特例期間も2020年12月末で一旦終了。延長も予測されますが、ずっと助成金に頼り続けるわけにはいきません。支給が終わった瞬間、解雇が一気に増える可能性は高いでしょう。
解雇に至らなくても、業績悪化した業界では給与や賞与の削減が当たり前に行われています。大手航空会社、旅行会社、飲食業界など、人の動きに業績が左右される業界は苦境に立たされています。現場社員は大変でしょうが、給与や賞与の削減は、会社がまだ「社員を雇えている、事業を継続していける」状態であることを示しています。
業績が悪くても、解雇はできない?
日本社会において、解雇は厳しく扱われます。
「業績悪化で解雇はやむなし…です。それもこれも新型コロナウィルスが悪いんです。会社はできることをやりました」会社側はこう主張するでしょう。しかし、このような言い分での解雇はなかなか受け入れられません。それどころか「不当解雇」とされるケースも出てきます。
不当解雇とは、労働基準法・労働契約法等の法律の規定や就業規則の規定を守らず、一方的に会社都合で社員を解雇すること。つまり「法律で許されない解雇」です。
「コロナのせいで、売り上げが前年比10%しかありません。もう会社はおしまいです。解雇以外にどうしろといいますか?」というような最終局面であっても、正当な段階を踏まなければ不当解雇になってしまう。これは厳しい状況にある会社にとって、非常に厄介な現実です。
解雇は必ず専門家に相談を
もし業績悪化での解雇を検討することがあれば、まずは自社の就業規則を確認してください。就業規則に根拠条項(どのような条件に当てはまれば解雇できるのかという規定)があって、初めて解雇ができます。
そのうえで大切なのは、解雇を自社で全部やり切らないこと。解雇トラブルの回避は、本人に最初に伝えるときが肝心です。「とりあえず、本人に一度解雇の話をしようか」というような気持ちで話をすれば、かなりの確率でトラブルにつながります。
本人に伝える前に、必ず専門家に相談してください。知識のないまま解雇を進めれば訴訟リスクが高まります。解雇の基準には曖昧でケースバイケースなものが多くあり、あなたが「大丈夫だ」と思っていても、解雇基準を満たしていないかもしれません。
解雇基準は曖昧、属人的な部分が大きい
曖昧とはいっても、オーソドックスなガイドラインは存在します。
- 解雇する前に、まず役員報酬を削りましたか?
- 他に対応方法はありませんでしたか?手を尽くしましたか?
- 解雇対象者を選ぶときの基準は明確になっていますか?
といったようなことです。
ただしトラブルになり、実際に訴訟に発展するかどうかは、
- 該当の社員の性格
- 対応して話す上司・経営者の性格
- 会社と社員の関係性
に寄ります。属人的な部分が大きいため、「ケースバイケース」といわれるのです。「この前は大丈夫だった」「あの人のときはこの方法でよかった」などと安易に扱ってはいけません。
一番大切なのは誠実な対応
業績悪化での解雇で大切なのは、誠実な対応です。とりつくろわず、会社の状況を正直に伝え、「できることは全てやる」という誠意を尽くしましょう。
新型コロナは、テレワーク、副業兼業の推進、マスク生活、オンライン会議…と働き方を大きく変化させました。それらは雇用があってはじめて成り立つものです。コロナが経済状況を悪化させたことも事実ですが、これまで会社を支えてくれた社員の今後を考え、訴訟などのトラブルを回避できるよう、専門家と相談をしながら進めてください。
「アフターコロナの会社の守り方」、次回は健康管理について、トラブル回避をする方法を解説します。