2020年は、年初には考えもしなかった1年になりました。現在がアフターコロナなのか、ウィズコロナなのかもまだ明確ではありません。確かなのは、新型コロナウイルス流行が私たちの働き方を大きく変えてしまったということです。
コロナによって人と人の接触が制限されたため、これまで保守的だった会社も変化せざるを得ませんでした。その結果、働き方だけではなく、人の意識も大きく変わっていきました。
コロナで変わったワーキングシーン7つ
客先を訪問して間関係をつくるところから始まっていた営業も、パソコン上での営業がレギュラーになりつつあります。付随して、データを社内サーバからクラウドへと移行する会社が急増。自粛要請期間中は、書類管理や押印のためだけに出社するケースが非難され、ペーパーレス・印鑑レスも急激に進みました。セミナーや飲み会もWEB上での開催が当たり前となり、大きな社会変化がもたらされました。
上記の変化は、働く側にとってはおおむねポジティブなものが多いでしょう。しかし「会社運営」「労務管理」という側面から見るとトラブルの温床にもなり得ます。実際、すでに各所で労務トラブルの芽は生まれているといって過言ではありません。
アフターコロナの労務トラブル、4つの火種
ワーキングシーンの変化から生まれた労務トラブルの火種は、今は目に見えなくても、いずれ必ず炎上します。どれもコロナ流行がなければ火が着かなかったものばかりです。そして、先を見越してさっさと火消しを行っている会社も多くあります。
「そのうち何とかしよう」「そんなに大事ではないだろう」では、会社の存続にかかわるトラブルに発展しかねません。ひとつひとつ、スピーディーに対策を取る必要があるでしょう。
連載「アフターコロナの会社の守り方」第1弾は、テレワークについてです。
テレワークの実施率
テレワークの実施率は、2020年5月には31.5%でしたが、コロナが一旦落ち着いたように見えた10月上旬には18.9%になりました。テレワークに対応しきれなかった会社が「やっぱり出社した方がいいよね」と出社勤務に戻した結果、テレワーク率が低下したのです。
テレワークを経験した優秀層が、大移動を始めている
しかし30%もの会社員が一斉にテレワークを経験したことにより、優秀な人材は「テレワークでも成果を出せる自分」「自由な働き方のよさ」に気が付いてしまいました。出社せずともパフォーマンスを落とさずに仕事ができ、QOLが向上するのであれば、わざわざ通勤する必要はないからです。
結果、優秀層の転職が相次いでいます。出社勤務を命じられ、モチベーションが維持できなくなった社員たちは、合理的で新しい働き方に対応している会社へ、どんどん移り始めています。
一般社員のモチベーションにも響く
特にハイスペックな人材ではなくても、テレワークの快適さを知ってしまった社員は多くいます。「1日に2時間の通勤時間を、仕事や勉強に充てたいよね」「子育てや家族との時間を大切にしながら、自分のペースで仕事ができるのは有難い」という感覚が一般的になり、転職まではいかずとも、出社に対するネガティブさを抱えながら働く社員が増えています。これは非常によくない傾向ではないでしょうか。
明確な会社のスタンスとして「我が社はテレワークはしない」と打ち出すなら、それはありです。その社風にマッチする人材がやってくるでしょう。しかし「まだ制度がととのっていないからね…」「本格導入は面倒だよね…」という姿勢で、なぁなぁに出社に戻したのであれば、優秀層が去り、モチベーションの下がった社員だけで会社を運営するという地獄のような未来しか見えません。
テレワーク導入、初期に生まれる問題は?
ここからは、テレワークを会社の制度として根付かせるための「ととのえかた」についてお話します。
緊急的にテレワークを導入した場合、以下のような問題が生まれます。
・会社で使っているパソコンは持って帰れるのか
・セキュリティソフト代は誰が払うのか
・テレワークのために自宅に引いたインターネット回線の費用は誰が負担するのか
・在宅勤務で冷暖房のためにかかる費用は、会社が払うのか
上記は一例ですが、テレワーク初期は主に費用負担の話が多くなるはずです。ただしルールを明確にすれば、すぐに解決できます。
まずは、テレワークの費用負担を明確にする
費用負担のトラブルが起きる前に、ルールを決めましょう。
・通信代、ソフト代、水道光熱費などの、費用負担額を決める
社員が支払う代金については、会社の負担金額を決めてしまいましょう。こまごました計算をするのではなく、「テレワーク手当」として一律支給するのが一般的です。たとえば「5000円の手当を支給するので、諸経費はそこから賄ってくださいね」という方法です。
・通勤手当をテレワークに対応できるように変更する
テレワークでは、ひとつ減る経費があります。通勤手当です。しかし通勤手当が減るかどうかは就業規則の規定によります。たとえば「1か月の定期相当代を支払います」と記載されている場合は、1日も出勤しなかった月も、全額支給しなくてはいけません。
上記のような場合は、就業規則の内容自体を見直す必要があります。
見直し後の記載例)
・定期代を支払いますが、定期代を下回る通勤代の場合は、その金額を支払います
・1日あたり〇〇円×出社日数分を支払います
テレワークの労働時間制・労働時間の計算の仕方を決める
これまでは、「オフィスにいる時間=労働時間」でしたが、テレワークではそうはいきません。
テレワークを経験された方はご存じかと思いますが、使える時間は細切れになります。子どもがいた場合などは、集中して仕事ができる時間はほんの少しだと考えてよいでしょう。子どもが仕事部屋に入ってきて、ちょっと遊んで、仕事に戻り、子どもが寝た後でその分の仕事をする…という状況も多いはずです。そのようなとき、労働時間の記録方法・計算方法を定めておかなければ、トラブルにつながります。
テレワークに対応した労働時間制度として、よく使われる3つをご紹介します。安易に選ばず、どの制度が現場にマッチするのかをよく検討し、ルール化してください。
①フレックスタイム制
9:00〜18:00のように決まった時間帯ではなく、働く時間帯を自分で選べる制度です。必ず出社(勤務)する時間帯をコアタイム、自由に使える時間帯をフレキシブルタイムとして設定し、1日で決められた勤務時間まで合算で働けるため、業務時間が細切れになるケースでも対応しやすいといえます。
②事業場外みなし労働時間制
「何時間働いても、何時間働いたとみなしましょう」という制度です。いくつかの条件がありますが、テレワークだけではなく、業務内容や時間にばらつきがあり状況が変化するケースでは、事業場外みなし労働時間制が向いているかもしれません。
③シフト制
シフト制を用いて「何時から何時までは働いてください」と定めることも可能です。
テレワーク勤務規程 作成のすすめ
テレワークを会社に根付かせるため、上記の内容をまとめた「テレワーク勤務規程」の作成をおすすめします。トラブルを未然に防ぐためにも、ルール文章化と社員周知はとても大切です。規程があれば、在宅勤務中に「これどうなの?」と疑問が出たとき、出社せずとも解決ができるようになります。
以下テンプレートをダウンロードし、自社に合わせてカスタマイズしてお使いください。
テレワーク勤務規程で決めておくことの例
【ツールについて】
・パソコン(会社で使っているものを持ちだせるか、個人所有を使うのか)
・コミュニケーションツール(インストール型で複数人で共有できるコミュニュニケーションツールが便利です。Slack、チャットワークなど)
・ビデオツール(複数人で画面共有できるため、ビデオ会議が可能です。Zoomなど)
・電話(ツールの導入ができない場合は電話を活用してください)
【セキュリティについて】
・カフェなど、ネットワークのセキュリティが不安な場所では仕事をしない
・使用パソコンにセキュリティソフトの有無を確認。ない場合はインストールする
・テレワークでは重要な機密事項は扱わない(重要機密は出社して対応)
【時間のルールについて】
・始業時間 / 終業時間 / 休憩時間 / 勤務してはいけない時間を決める
・欠勤となる基準を決めておく
・休日は、振替休日などを利用してフレキシブルに対応できるようにしておく
・明確にできなければ、「〇~〇時の間で最低〇時間」と決め、始業・終業は社員に任せる
【勤務時間の報告ルールと方法】
・何時から何時まで働いたか、何時間働いたか、仕事内容を報告する仕組みをつくる
・仕事の開始・終了やトラブル時の連絡方法を決める。時間外に仕事をしているときは指導する
【費用負担】
・通信費・パソコン代・光熱費・ソフト代などについて社員と会社の負担額を決める
・テレワーク手当てを支払うときは、金額と条件を決める
決めたことをきちんと運用していけば、会社の正しいルールとして定着します。今後、コロナ以外でもテレワークが必要な場面は出てくるでしょう。たとえば地震や台風などの災害、たとえば社員のライフイベントによる働き方の変化。コロナ打撃で転びっぱなしではいけません。起き上がったとき、環境変化に柔軟に対応できる強い会社になっていることが、社員からも望まれるのではないでしょうか。
まとめ
これほどまでに多くの人が一斉にテレワークを経験し、働き方に対する意識変革が生まれたことは、まさに歴史的な事象でした。
せっかくテレワークを導入するのならば、書類を確認したり記入するために出社することのないような運用方法を取り入れてください。就業規則もクラウド上で閲覧できる、書類もWEB上で提出できる、それが当たり前な時代は既にやってきています。「うちの会社はまだまだ」といっているうちに、優秀な社員が離脱してしまわないよう、正しい方法でテレワークを取り入れていただきたいと思います。
「アフターコロナの会社の守り方」、次回は副業兼業について、トラブル回避をする方法を解説します。