新型コロナウイルスの流行により、さまざまなパターンで社員を休ませる必要が出てきました。そのとき問題となってくるのが、社員に支払う休業手当です。
実際、新型コロナウイルスの影響でイベントが中止になったり、業績が悪化したりで、「人手が余るから休んでくれ」と突然いわれた社員の悲鳴がSNSなどに上がっています。今回のコラムでは、さまざまなパターンの「休み」に対し、会社が休業手当を支払う必要があるのか・ないのかについて、分かりやすくまとめてみました。
【4月13日】休業命令書がダウンロードできるようになりました
休業命令書は、必ずしも必要な書類ではありません。しかし、見通しの立たない休業は、会社・社員双方のストレスになります。「いったんいつまで」「その間の給与について」を、口約束ではなく、書面で取り交わしておくことは、トラブル防止につながります。必要に応じて、お使いください。
休業手当とは
休業手当とは、会社都合で社員を休ませたときに支払う手当です。手当額は、平均賃金の6割以上を支払う必要があります。
「会社のせいではないのに!」と思うことでも、休業手当が発生する可能性がありますので、社員を休ませるときは必ずチェックしてください。
休業手当支払いの原則
客観的に見て社員が労働できないとき、また社員が自己意思によって休むときは、休業手当の支払いは必要ありません。会社判断で休ませるときのみ、休業手当の支払いが発生します。
正社員だけではなく、パートタイマーであっても休業手当の支払いは必要です。
(週4日出勤の労働契約のパートタイマーを、会社都合で週3日出勤に減らしたときなど)
さまざまなパターン
NGなのは、上司や労務担当者によって休業手当の判断が変わることです。特に今回の新型コロナウイルスのような緊急時には、判断基準がブレていては社員も混乱します。以下の表を参考に運用をすすめてください。
パターン | 休業手当の要・不要 | |
新型コロナウイルスに感染していると診断が下された |
不要 | 入院または自宅待機となり、労働ができないため |
体温が37.5度以上あるなど、新型コロナウイルスに感染している可能性が高い | 必要 | 診断書などの、客観的に労働ができないと判断する材料がないため。(ただし、今後行政が発表する基準などで労務不能とみなされる可能性はあります) |
体温が37.5度未満などで、新型コロナウイルスに感染している可能性は低いが、念のため休ませたい | 必要 | 本人に働く意思がある場合は必要。ただし、本人申請で休む場合は不要 |
本人の体調は悪くないが、家族が新型コロナウイルスにかかった(または疑いがある)ため、休ませたい | 必要 | 本人に働く意思がある場合は必要。ただし、本人申請で休む場合は不要 |
新型コロナウイルスに感染した、または体調不良だったが、念のため回復した社員をもう少しの間休ませたい | 必要 | 医師の診断書などで、労務不能と診断された期間を超えて休ませる場合は必要 |
新型コロナウイルスの影響で仕事が減った、または中止になったので社員を休ませたい | 必要 | 仕事がないなどの理由は、会社都合の休業となるため必要 |
行政指導によって店舗などを閉めることになり、社員が働けなくなった | 必要 | 行政指導などの理由で社員を休ませる場合も、会社都合とみなされるため必要 |
学校の休校などで、子どもを見るために社員が働けなくなった | 不要 | 本人都合のため、休業手当の支払いは不要 |
ロックダウンになり、勤務ができなくなったとき | 不要 | 政府による命令は不可抗力とみなされ、使用者の責にはあたらないと認められるため不要 |
休業手当の計算の仕方
休業手当の金額は、平均賃金の6割以上です。平均賃金とは、「これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」をいいます。
平均賃金は、「有給休暇や欠勤の計算で使う1日当たりの賃金」とは異なります。たとえば月給22万円、所定労働日数22日の社員の平均賃金は、1万円ではありません。
例:月給22万円、所定労働日数22日の社員で、3月1日に休業が発生したケース
①12月:歴日数31日
②1月:歴日数31日
③2月:歴日数29日
④:①②③の総歴日数:91日
(月給22万円×3か月)÷④91日=7252.74円になります ※小数点第3位を切り捨て
⇩
7252.74円×60%=4351円になります ※1円未満切り捨て
⇩
この社員の平均賃金の1日分は「4,351円」と計算されます。
休業手当が出ない場合
休業手当が出ない場合(本人都合の休み)で、有給休暇を使わないときは、本人がもらえる給与金額がなくなり、生活に影響が出てきます。
本人が新型コロナウイルスにかかった、または病気で休むときは、傷病手当金の申請が可能です。「4日以上休んだ場合のみ」などいくつか要件がありますので、確認のうえ、該当するときは利用しましょう。
参考記事|傷病手当金の手続き、何から始める?書類用意と申請の流れ
雇用調整助成金について
雇用調整助成金は新型コロナウイルスに特化した助成金ではありませんが、新型コロナウイルスの影響に伴う業績悪化で雇用調整を行わざるを得ない場合は、特例措置が受けられるようになりました。もし条件に当てはまるなら、申請の検討をおすすめします。
【雇用調整助成金の目的・概要】
・経営悪化(売上の大幅な減少、事業の縮小など)で休業をしないといけなくなったとき、従業員の雇用を守るため休業期間中の休業手当などの一部を助成します。
・休業の代わりに教育訓練を実施したときは、助成金の上乗せがあります。
・新型コロナウイルスの影響で、売上が10%以上減少した事業主は、通常の助成金の要件より優遇された特例措置が受けれます。
【対象の企業】
① 雇用保険に加入している事業主
② 直近3か月と前年の同じ期間とを比べ、売上高などが10%以上減少している事業主(新型コロナウイルス関係の特例措置では、「3か月」が「1か月」に短縮)
③令和2年1月24日時点で、事業所設置後、1年未満の事業主も対象(新型コロナウルス関係の特例措置)
④雇用保険の加入者、受け入れている派遣労働者数が、直近3か月と前年の同じ期間の平均値と比べて10%を超えて4人以上(大企業は5%を超えて6人以上)増加していないこと(新型コロナウイルス関係の特例措置では、この要件は不要)
【申請に必要なもの】
休業・教育訓練・出向をおこなう前に計画書の提出が必要です。計画提出後、休業をおこなうときは、事前の休業の計画の提出をします。
新型コロナウィルスの特別措置は、令和2年1月24日以降に1回目の休業などがあるときは、休業後でも計画届出の提出ができます。ただし、令和2年5月31日までに提出が必要です。自社が対象になるか、対象者などを確認し、助成金の窓口に相談してください。
【助成金の対象】
・休業、教育訓練費、出向の3つ
・対象者は、6か月以上雇用保険に加入している従業員(新型コロナウィルス関係の特例措置では、6か月未満でも対象)
【受給額】
①休業手当または教育訓練をおこなったとき賃金の2/3(大企業:1/2)
②出向は、出向元事業主が負担する賃金額の2/3(大企業:1/2)
※①②は、対象者1人1日あたり8,335円上限(令和2年3月1日以降は8,330円)
③教育訓練を実施したとき:加算1日1,200円/日
※支給限度額日数:1年間で100日(3年間で150日)(新型コロナウィルス関係の特例措置では、3年間で150日という条件は、適用されない)
まとめ
休業手当の要不要は、その休みが会社都合か・本人都合かによって変わります。今回の新型コロナウイルス騒動は緊急度も高く、休業手当についてあわてて調べ始めた方も多いでしょう。しかし休業手当は、新型コロナウイルスだけではなく、災害や季節性インフルエンザのときにも関係してきます。この機会に正しい運用方法を知り、会社・社員双方のリスクを回避できるよう、労務管理の体制をととのえることをおすすめします。