通常であればそこまで難しくない定時決定ですが、2020年は新型コロナウイルスの影響により多くの会社で休業が発生しました。つまり、通常通り4,5,6月の報酬を基にしての計算では、休業して報酬が下がっている従業員の標準報酬月額も下がってしまう、という事例が発生します。

健康保険料、厚生年金保険料の社会保険料は、その人の賃金に合わせた「標準報酬月額」により計算されます。標準報酬月額は、賃金を健康保険・厚生年金保険の保険料額表に当てはめて決定します。

※健康保険・厚生年金保険の保険料額表は3月、9月に変更があり、全国健康保険協会(協会けんぽ)のサイトに記載されています。 参考|協会けんぽ

定時決定とは

標準報酬月額は、健康保険・厚生年金保険の加入時の賃金で決まりますが、昇給や減給などがあれば報酬額は変動します。それを毎年1回見直すのが、定時決定です。

【定時決定】
4,5,6月の報酬を基に、標準報酬月額を決定します。
【算定基礎届】
定時決定の計算結果は、6月上旬に日本年金機構から郵送される算定基礎届に記載し、毎年7月10日までに日本年金機構に郵送などで提出を行う必要があります。

新型コロナウイルスの影響で休業を行った会社では、通常通り4,5,6月の報酬を基にしての計算では、休業して報酬が下がっている従業員の標準報酬月額も下がってしまう、という事例が発生するため、注意が必要です。

※以下からは、協会けんぽの手続について記載しています。
参考|算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和2年度)

定時決定の通常の計算方法

休業のないときの標準報酬月額は、4,5,6月の中で、報酬支払基礎日数が17日以上の月の平均額を基に算出します。

報酬支払基礎日数は、以下のように計算します。


  • 月給制(欠勤控除なし):暦日数
  • 月給制(欠勤控除あり):就業規則等に基づき定められた「所定労働日数」-「欠勤日数」
  • 日給制・時間給制:出勤日数+有給休暇日数

短時間労働者(特例適用事業所以外)については、17日以上の月があるときは17日以上の月で算定し、17日以上ないときは15日以上で算定します。


また、この4,5,6月は給与支払日を元に計算します。

4月分:3月末締め4月20日支払い
5月分:4月末締め5月20日支払い
6月分:5月末締め6月20日支払い

 

休業があるときの計算方法

では、休業があったときはどうすればよいでしょうか。7月1日時点で、

① 一時帰休の状況が解消している
② 一時帰休の状況が解消していない

いずれかによって計算方法が異なります。

一時帰休とは、会社の都合で従業員を休業させることです。今回のように新型コロナウイルスの影響などで仕事量が減り、従業員を休ませたときなどが該当します。

 

① 一時帰休の状況が解消しているとき

4,5,6月のうち、休業手当を含まない月のみを対象として計算します。なお、4,5,6月いずれにも休業手当が支払われている場合は、改定される前の標準報酬月額で決定します。

算定基礎届では「9.その他」欄に休業手当の支払月、一時帰休の実施期間(解消したときは「○月○日一時帰休解消」等)を記入します。また、休業した日数は支払基礎日数に含めます。

(例)7月1日には一時帰休の状況が解消している

支払基礎日数 基本給+諸手当 休業手当 合計
4月 31日 200,000 0 200,000
5月 30日 200,000 0 200,000
6月 31日 100,000 60,000 160,000

6月は休業手当を支払っているため、対象外です。

4,5月の平均を計算し、(200,000+200,000)/2か月=200,000円
よって標準報酬月額の区分に照らし合わせて標準報酬月額は200千円と決定。

※標準報酬月額の区分はこちら
参考|協会けんぽ 都道府県毎の保険料額表

 

② 一時帰休の状況が解消していないとき

休業手当等が支払われた月と通常の給与を受けた月を両方対象として報酬月額を算出します。

算定基礎届では「9.その他」欄に休業手当の支払月、一時帰休の実施期間(開始したときは「○月から一時帰休」)を記入します。また、休業した日数は支払基礎日数に含めます。

(例)7月1日に一時帰休の状況が解消していない

支払基礎日数 基本給+諸手当 休業手当 合計
4月 31日 200,000 0 200,000
5月 30日 200,000 0 200,000
6月 31日 100,000 60,000 160,000

6月は休業手当を支払っているため、対象外。

4,5,6月の平均を計算し、(200,000+200,000+160,000)/3か月=186,667円
よって標準報酬月額は190千円と決定。

随時改定になるケース

休業手当を支払うとき、随時改定になることがあります。

随時改定とは、従業員の報酬が、昇(降)給等の固定的賃金の変動に伴って大幅に変わったとき、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定することです。

休業手当を1日でも支払う月が4か月以上続いたときは、随時改定の対象となります。現状の社会保険料から、標準報酬月額の等級が2等級以上の変更があれば、日本年金機構に対して随時改定の手続きを行います。

(例)随時改定を行うケース

支払基礎日数 基本給+諸手当 休業手当 合計
3月 29日 200,000 0 200,000
4月 31日 180,000 12,000 192,000
5月 30日 140,000 36,000 176,000
6月 31日 100,000 60,000 160,000
7月 30日 180,000 12,000 192,000
8月 31日 200,000 0 192,000
9月 31日 200,000 0 176,000
10月 31日 200,000 0 192,000
11月 31日 200,000 0 176,000

上記の表のケースでは、4,5,6月の3か月で休業が発生し、7月も一時帰休が解消されてないため、7月に随時改定を行う必要があります。

休業によって随時改定を行ったときは、会社の休業解消時にも、同じように随時改定が必要になることがあります。「会社の休業解消時」とは、休業手当の支払いがない月が3か月続いたときを指します。
(例)8,9,10月の3か月で休業手当の支払いのない月が3か月以上発生したため、11月で随時改定を行う。

一時帰休の状況が解消しているかどうかの判断

「一時帰休の状況が解消したとき」とは、固定の賃金が減額されず、その後も通常の賃金未満の休業手当等が支払われる見込みがない状態をいいます。

また、通常の賃金未満の休業手当等が支払われないことが明確でなくても、現実に固定の賃金が減額されない状況が継続して4か月以上あり、2等級以上の差を生じた場合は、一時帰休が解消したものとして随時改定の対象とします。

正しく計算し、正しく社会保険料を納めましょう

年金事務所では、賃金の記載が合っているかどうかは把握できません。そのため、算定基礎届の金額が間違っていても、会社に指摘がくることはありません。

もし計算の間違いに気が付いたら、「改定届」を作成して、年金事務所もしくは広域事務センターに郵送もしくは持参すれば訂正が可能です。しかし間違いに気が付かないままでは、社会保険料の金額が変わってしまい、会社もしくは社員が多く(少なく)支払ってしまうことになります。

2020年は特に注意が必要な年です。正しく保険料を支払うためにも、定時決定(随時改定)の計算をミスなく行えるようにしてください。

 

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