政府がいくら旗振りをしても、なかなか進まなかったテレワークの導入。それが2020年の新型コロナ流行により、一気に進みました。しかし感染防止と政府の自粛要請に応えて取り急ぎで始めた企業も多く、テレワーク定着後もルールに不明点を残した運用をしているケースも少なくありません。
本記事では、テレワークの課題のひとつである通勤手当についてスポットを当て、「自宅勤務になったことで、通勤手当の金額が下がった場合の支給方法」と、「通勤手当額の変動による社会保険の見直し」について解説します。
通勤手当を出社した分だけ支給したいとき 2つのケース
テレワークのメリットのひとつに、企業の支払う通勤手当が減ることがあります。ただし、就業規則やテレワーク規程に「通勤手当に関する要件の記載」があるかどうかが重要になります。まだ記載がなければ、就業規則やテレワーク規程に通勤手当について記載する必要があります。
ケース① 通勤手当を、実際に出社した日の分だけ支給したいとき
【前提】
現在、通勤手当として1か月の定期代を月額で支給している企業が、テレワークのため、実際に出社した日数分だけ日額で支給するとします。
【例】
1か月定期代:15,000円
1日の交通費:往復で820円
出社日数:5日
日額の支給方法:820円×5日=4,100円
この場合、企業は4,100円を支払います。
ただし、上記のような支給方法にする場合は、就業規則やテレワーク規程などに「テレワークで出社日が減ったときは通勤手当の支給方法が変わる」旨の記載が必要です。
【就業規則やテレワーク規程での書き方例】
「テレワークを行ったときの通勤手当は、実際に出社した日数分×1日の交通費を支給します。ただし、支給額は1か月定期代を上限とします。」など。
ケース② 通勤手当(給与)ではなく、経費精算として支給したいとき
支給方法の根拠が明確になっていれば、出勤日が減ったときに、通勤手当ではなく経費精算として支給することもできます。
【経費精算として支給できる条件】
労働条件通知書(または雇用契約書)で、勤務地が自宅と指定されているときは、経費精算として支給できます。また、経費精算をするためには出張旅費規程が必要です。
本来、通勤手当は給与なので、経費精算をすることはできません。しかし勤務地が自宅の場合には、会社に来ることは「通勤」ではなく「出張」として扱われます。テレワークであっても、外回り営業などと同様に「旅費交通費」としての経費精算が可能になります。
注意点として、労働条件通知書(または雇用契約書)で、勤務地が自宅ではなく会社と指定されている場合は経費精算ができないことがあります。ただ、労働条件通知書の再作成は手間がかかります。そのため、はじめから勤務地を「本社および会社が指定した場所」と記載しておくと、柔軟に対応ができて便利です。社員に対して「今月は自宅勤務をしてください」と指定するだけでよく、労働条件通知書の再作成の手間も省けます。
テレワークであっても、全額支給が必要なケースもある
テレワークで、出勤日がゼロもしくは数日であっても、通勤手当を月額で支給しなくてはならないケースがあります。
・就業規則などに、「通勤手当は1か月の定期代を支給する」としか記載されていないとき
・そもそも、就業規則などに記載がない、就業規則自体がないなどでルール不在のとき
ルールに沿って定期代の通勤手当を支給したあとで、テレワークを理由に通勤手当を減らしたり、返還を求めることはできません。ただし、就業規則などにルールが明確に記載されているときは、返還や精算を求めることができます。
【返還や精算を求めることができる書き方例】
「通勤手当は、1か月の定期代を上限に、通勤にかかる実費を支給する」
「通勤手当は6か月間の定期代を一括で支給する。ただし、業務の都合など出社場所が変更になったときは定期を解約し、払戻金を返還することとする。定期を解約後は、通勤にかかった実費分を日額で支給する」
ルールが定められていなければ、トラブルにつながります。テレワークを正しく運用するためにも、通勤手当のルールを盛り込んだ就業規則やテレワーク規程を作成しましょう。以下記事内から、「テレワーク勤務規程」のWordファイルが無料ダウンロードできます。お役立てください。
参考記事|【連載】アフターコロナの会社の守り方 その①テレワークの導入【テレワーク勤務規程付き】
通勤手当が毎月変動するとき、社会保険料はどうなる?
社会保険を算定する際の「固定的賃金」(給与)には、通勤手当が含まれます。テレワークのため、会社に出勤した日だけ通勤手当が支給されるときには、社会保険の算定の基礎となる固定で支給される給与(固定的賃金)の額が変わり、月額変更の対象となります。
固定的賃金が変わった月から3か月間の賃金の総額の平均をとったとき、その金額が、賃金が変わる前の月より2等級以上差があれば、社会保険料の変更手続きも必要になります。
以下2つのパターンを解説します。
パターン① 月額支給から日額支給になったときの社会保険料
通勤手当が月額の支給から日額の支給に変更となったときは、どうなるでしょうか。
【例】
①テレワーク前:通勤手当 月額11,000円(1か月定期代相当)
②テレワーク後:通勤手当 日額560円×出社日数
- 支給方法が変わった通勤手当を支給した月から3か月間の賃金の総額を平均し、社会保険料の等級が2等級変動していたら、4か月目に社会保険料の変更手続きと変更をする必要があります。
- その後、上記②の日額での支給だと毎月通勤手当が変動しますが、毎月が月額変更の対象となるわけではありません。(出勤日の分のみの通勤手当を支給されているアルバイトやパートと同じ考え方をします)。
- テレワーク期間が終わり、月額(上記①)の支給に戻ったときは、再度、3か月間の賃金の総額を平均し、社会保険料の等級が2等級変動していたら、4か月目に社会保険料の変更手続きと変更をする必要があります。
参考図|2等級変動がない場合は、テレワーク前の社会保険料が適用されます
パターン② 月額の支給から経費精算になったときの社会保険料
通勤手当の支給がなくなり、経費で精算に変更になったときの保険料はどうなるでしょうか?やはり、社会保険料の変動手続きが必要です。
月額での支給から経費精算になった月の賃金が支払われた月から、3か月間の賃金の総額の平均を計算し、2等級以上変動していたら、4か月目に社会保険料の変更手続きをする必要があります。テレワークが終わり、月額の支給に戻った際にも、変動手続きが必要になります。
入社時からテレワークのとき、通勤手当をいくらとして社会保険料を計算すればよいか?
入社時からテレワークのケースでは、通勤手当は入社月の通勤手当の額をもとに、社会保険料を決定します。その後、毎月の通勤手当の支給額が変動するときでも、日額から月額での支給に変わるなど、支給方法の変更があるまでは、社会保険料の月額変更の対象にはなりません。
テレワークが終わり、月額を支給されるようになると、そこから3か月間の賃金総額の平均を計算し、2等級以上変動していたら、4か月目に社会保険料の変更手続きと変更が必要です。
まとめ
通勤手当を下げるときの要件については、就業規則の通勤手当がどう記載されているかの確認をし、記載がされていないときは、修正や変更の必要があります。テレワーク規程をつくるとき、賃金規程とテレワーク内に記載する通勤手当の内容が異なっていると、トラブルの元になります。内容が異ならないように注意してルールをつくり、それに沿って支給をしましょう。
【通勤手当についての支給条件が記載されている可能性がある書類】
・就業規則
・雇用契約書
・労働条件通知書
・テレワーク規程(テレワークに関わる各規程)
通勤手当の変動による社会保険の変更手続きは、支給方法が変わった月から3か月間の平均をとり、手続きが必要かの判断をします。通勤手当の変動、それに伴う社会保険の変更は混乱が起こりやすいところです。支給方法が変わるときは、しっかり社員に説明しましょう。