企業、従業員にとって大きな負担となる社会保険料ですが、新型コロナの影響で休業し、給与が一定以上減少していれば社会保険料が下がる特例が出ました。

通常、給与額の変更に合わせて社会保険料の改定を行いますが、これまでは給与が変わってから4か月目からでないと社会保険料は改定されませんでした。しかし今回の特例では、新型コロナの影響で休業をして給与が下がった2か月目(翌月)から、社会保険料を下げることができるようになりました。

通常の社会保険料の改定

社会保険には、定時決定(算定基礎)と随時改定(月額変更)の2種類の改定があります。

定時決定(算定基礎)

毎年7月10日までに行わないといけない届出です。

毎年4、5、6月に支給された給与(報酬)をベースに、9月に社会保険料が改定されます。9月に改定された社会保険料は、原則翌年の8月まで変わりません。届出の書類は、毎年6月上旬〜中旬くらいに、日本年金機構から各企業へ郵送されてきます。

随時改定(月額変更)

給与(報酬)の固定的賃金(基本給、通勤手当、諸手当、歩合給の歩合率など)が変更になり、変更後の給与が支給された4か月目から社会保険料が変更されます。

ただし、社会保険料が変更されるのは、以下1,2が該当するときです。

  1. 標準報酬月額(※)が2等級以上かわる
  2. 給与が変更になった月から3か月間の各月17日以上の給与計算の基礎日数(有給休暇、会社都合の休業など含む)がある

変更時には、企業から年金事務所の届出が必要です。書類は、日本年金機構のサイトからダウンロードできます。

日本年金機構 月額変更届の提出

※標準報酬月額は、給与(報酬)によって決まります。国によって、支払われる給与(報酬)で等級分けされ、等級ごとに社会保険料が定められています。

今回の特例改定について

給与(報酬)が、標準報酬月額が2等級以上下がった2か月目(翌月)から、社会保険料が下がります。ただし、給与が下がった月を含め3か月間すべての、各月17日以上の給与計算の基礎日数(有給休暇、会社都合の休業など含む)が必要です。

通常の随時改定との違い

通常の随時改定 コロナ特例改定
改定になる賃金の変動 固定的賃金(基本給、通勤手当、諸手当、歩合給の歩合率など) なし(休業で賃金が下がっていれば対象)
改定になる月 4か月目から 2か月目(翌月)から

社会保険料特例

※日本年金機構 特例改定パンフレットより

今回の特例改定の要件

以下の条件をすべて満たせば、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)を給与が下がった2か月目(翌月)から改定できます。

  1. 連続3か月以上、在籍している企業で社会保険に加入している
  2. 給与が下がった月を含めて過去3か月間、月17日以上の給与計算の基礎日数(有給休暇、会社都合の休業など含む)
    例:4月から休業の関係で給与がさがったときは、2、3、4月の3か月間
  3.  新型コロナの影響で、休業(1日休業、短時間休業)がある
    ※企業全体で休業していなくても構いません。個人単位で1日以上休業した、または1時間以上の短時間休業があれば対象となります。
  4. 4月から7月のあいだの給与が下がっている
  5. 社会保険料の等級が2等級以上下がっている
  6. 特例措置の手続きについて本人の同意がある 

※同意は、本人から「同意書」を取っておきます。書式は任意です。以下を参考にしてください。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う標準報酬月額の改定に係る同意書(月額変更届(特例)用)Wordファイル   


注意点

  1. 傷病手当金・出産手当金などの給付額の計算には、特例の標準報酬月額が使われます。
  2. 将来受け取る年金額の計算には、特例の標準報酬月額が使われます。
  3. 届出できるのは、1人1回限りです。
    ※給与(報酬)が対象期間中に変動していたとしても1回のみです。たとえば4月と6月にAさんの届出をするときは、4月か6月のどちらかでしかできません。企業は、対象者ごとに複数回にわけて届出できます。

特例の対象となる期間

令和2年4月~7月が対象となります。対象期間は、給与(報酬)の支給月ベースです。

例:賃金締日が毎月末日 / 支払日が翌月20日 の場合

休業があった月が4、5月であれば、
3月1日~3月31日分の給与・・・4月20日支給
4月1日~4月30日分の給与・・・5月20日支給(休業のあった月の給与(報酬))
5月1日~5月31日分の給与・・・6月20日支給(休業のあった月の給与(報酬))
6月1日~6月30日分の給与・・・7月20日支給

このときは、6月から特例が使えます。

特例の届出期間

令和3年2月1日(月)まで

遡って手続きはできますが、速やかに手続きをされることをおすすめします。遡って手続きをすると、給与の社会保険料の精算や年末調整などの処理が煩雑になってしまいます。

特例の届出方法

提出窓口:管轄の年金事務所
※通常の定時決定(算定基礎)、随時改定(月額変更)と提出する窓口が違うため、注意してください。

提出方法:郵送または持参
提出書類:以下の2種類

健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届(特例)/厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う標準報酬月額の改定に係る申立書

複数回に分けて届出を行うときは、1回の届出ごとに「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う標準報酬月額の改定に係る申立書 」が必要です。

よくある質問

Q:新型コロナ特例の対象者の定時決定(算定基礎)の届出は必要ですか?

必要です。新型コロナ特例の社会保険料は、8月までです。定時決定(算定基礎)で決められた社会保険料は9月から適用されます。ただし定時決定(算定基礎)の対象にならない7、8月に社会保険料が改定になる方は、休業が回復してから随時改定の対象となります。

Q:役員でもコロナ特例の対象になりますか?

役員の方でも、休業があり報酬が下がったという要件を満たしていれば対象になります。定期的に行われる年金事務所の調査があったときに証明が必要になるため、いつ休業したかわかるように記録は残しておいてください。

Q:同意書は、日本年金機構の雛形を必ず使わないといけませんか?

使わなくても構いません。書式は任意書式です。

ただし本人に、傷病手当金や出産手当金、将来の年金額などの計算に、今回のコロナ特例で下がった標準報酬月額を使うこと、休業が撤回されたときは随時改定になることなど、十分な説明が必要です。そのため任意書類であっても、説明内容の記載がある様式で本人に署名などをしてもらうことをおすすめします。同意書は年金事務所に届出する必要はありませんので、企業で2年間(法律で定められている期間)保管しておいてください。

Q:今回の新型コロナ特例は、必ず手続きをしないといけませんか?

コロナ特例は、必ずしないといけない手続きではありません。休業で給与(報酬)が下がっているなら、手続きをすれば社会保険料を下げることも「可能」ですよ、という制度なので、義務ではありません。

ただし従業員の社会保険料の負担を考えると、手続きをおすすめします。そのときは従業員に不利になる(年金額など)こともあるので、説明は必要です。

まとめ

給与が減ったにもかかわらず、社会保険料を払い続けるのは、金銭面だけではなく気分的にも負担が大きいはずです。年金額の計算に響くなどのデメリットもありますが、注意点を納得できているのであれば、活用してみてもよいのではないでしょうか。まだあまり知られていない特例ですが、そのときの最新情報を確認しながら、手続きをしてみてください。

 

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