「インフルエンザに感染したら、○日休まないといけない」という決まりはありません。そのため人事サイドは「休まれては困る」「うつされてはもっと困る」のはざまで悩むはず。

しかしインフルエンザは毎年流行し、重症化しやすいため、罹患者は欠勤が長引きます。感染力も強いため職場内で広がるケースも目立ちます。そうなる前に対応方法を決めておき、業務への支障を最低限に抑えるのも、人事労務担当者の大事な役割でしょう。

今回は、インフルエンザの社員にどう対応したらいいのか、流行期の前に何を決めておけばよいかの「人事労務担当者の疑問」を8つに絞り、分かりやすく解説します。

疑問① インフルエンザでの就業に、法的制限はある?

子どもの場合は「学校保健安全法施行規則」によって登校日のルールや、学級閉鎖についての判断基準が定められています。しかし大人の場合は、季節性インフルエンザについての出社停止期間を定めた法律は存在せず、「勤務の停止」を命令することはできません。

しかし出社を強要して本人の症状が悪化したり、社内感染が拡大した場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性も出てきます。インフルエンザは命にもかかわる病気。そのため法的な強制力はなくても、労働者保護の観点から、インフルエンザにかかった社員には出社停止を命じることが望ましいとされています。

疑問② 大前提として、何を就業規則に決めておく?

インフルエンザについての出社停止期間を定めた法律は存在しないため、ルールは会社の定めるところによっています。しかし欠勤連絡が入るたびにまちまちな対応をしていては、業務への対応もご後手後手になります。まずは就業規則にルールを定めておきましょう。

【就業規則に記載しておきたい項目例】
出勤停止期間は、1週間程度と定めること / 医師の診断書の提出が必須なこと / 有給休暇を希望すれば取得できることと、申請の流れ / 発熱した社員にインフルエンザ検査を命令する基準・・・など

発熱した社員に検査を受けさせるためには、就業規則で「どういったときに受診するのか、業務命令として出せるか」などを決めておく必要があります。また、業務命令で強制的に受診させるのであれば、受診にかかる時間の賃金の支払い受診料は会社負担になります。

疑問③ 有給休暇の取得、どうすればいい?

インフルエンザで有給休暇を取得できるかどうかは、その会社のルール次第。しかし「取れる・取れない」があらかじめ分かっていないと、本人も労務担当者も混乱します。

有給休暇が事前申請となっている会社では、当日の連絡で有給休暇を所得させることは、原則できません。しかしインフルエンザの欠勤でも原則通りに処理するか、柔軟に対応するかは、ケースバイケースでしょう。

問題なのは「どの上司に欠勤報告をするかで、有給休暇が取得できるか変わる」といった、公平性に欠ける状態。だからこそ就業規則で明確な基準を決めておく必要があります。

ただし有給休暇を使うかは、その社員が決めること。取得を強要してはいけません。

疑問④ 医師の診断書は絶対に必要?

インフルエンザか、普通の風邪なのかは、自己判断できません。そのため「インフルエンザで休みます」と報告をしてくる人は、必ず病院へ行っています。

医師の診断だけで休ませていいのか、診断書を提出させるのかも、就業規則に明記しておきます。

診断書の提出となったとき、診断書の料金は本人が支払います。労働者には「こういう理由で働けない」という理由を明確にする義務があり、理由のない欠勤を続けると、極端な話、懲戒の対象になってしまいます。

疑問⑤ 診断書と休業手当の関係とは?

診断書によって出勤できない期間が明確になったら、その間の給与がどうなるかを決めます。

【診断書で一定の期間が示された場合】
医師の診断書で出勤停止の期間は、社員個人の病気欠勤になるため、休業手当の支給は必要ありません。

【診断書で示された期間よりも多く休ませたい、もしくは診断書がもらえなかった場合】
休業手当を支払う必要があります。

インフルエンザに感染した社員が、熱が下がったので出社を希望した場合はどうなるでしょう。他の社員に感染する可能性があれば、出社を控えてもらえます。ただし働ける健康状態なのに会社側の都合で出社を止めるときは、休業手当の支払いが必要になります。

また、家族がインフルエンザに感染した社員についても、職場での感染を防ぐため休んでもらうことは可能です。これも会社の都合で休ませるので、休業手当の支払いが必要になります。

疑問⑥ インフルエンザでも傷病手当金はもらえるの?

傷病手当金は、仕事ができず給与が出ない期間に協会けんぽから支給される手当金です。インフルエンザでの欠勤でも、以下の4つの条件に該当すれば申請が可能です。

【傷病手当金の支給条件】
①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
②仕事に就くことができないこと
③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
④休業した期間について給与の支払いがないこと

手続きには、医師の証明が必要になります。協会けんぽの決まった書式で、証明をもらいましょう。協会けんぽ以外であれば、加入している健康保険組合に問い合わせをして、手続きを進めてください。

この手続きは、基本的に会社が行います。傷病手当金は、過去に労務不能だった実績を元に支払われる手当金ですから、休みから復帰したあとに「労務不能であった」証明をもらう必要があるのです。ちなみに時効は2年です。

疑問⑦ インフルエンザの社員のリモートワークは可能?

自宅療養中であっても、大切なメールの返信や、チームへの情報共有を行えたら、業務への支障を抑えることができるのに…というときは、どうしたらよいでしょうか。

まず医師が「就業不能」と診断した期間内に労働をさせるのは、基本NGです。ただし、熱が下がったあとで、医師に「最後の2日は念のため自宅療養をしてください」などと診断されている期間なら、ケースバイケースです。

リモートワークが可能なのは、「家族がインフルエンザにかかっていて、出勤停止」「インフルエンザの子どもの看病のため、自宅にいる」という状態。もしくは本人に熱があり「もしかしたらインフルエンザだから、ハッキリするまで出勤停止」というときも、リモートワークでいいでしょう。

会社には、安全配慮義務があります。たとえ本人が「家でメールだけは返したい」など求めてきても、就業不能とされる期間内は、安静にしてもらいましょう。

疑問⑧ 予防接種は会社負担?

販売や営業など人とかかわる職種や、毎年罹患者が多く壊滅してしまう部署などでは、インフルエンザの予防接種を推奨しているところも多いはず。そのときの費用はどうなるでしょうか。

「受けるように」と推奨した場合の予防接種の料金は、会社で負担しなくてもかまいません。ただし社員に費用負担が発生するため、予防接種を強制することは難しいでしょう。

希望者全員に予防接種を実施するときは、福利厚生費にできます。

インフルエンザに「負けない」労務管理を!

インフルエンザは、どんなに予防してもかかるときはかかります。急な欠勤は大きなリスクですが、普通の風邪と違い、無理をさせると職場全体に蔓延してしまう恐れもあるため、完治まで休ませる必要が出てきます。そのときの業務の引き継ぎや給与についてを明確に決めておけば、対応する担当者の手間を軽減でき、また社員間の不公平も防ぐことができるでしょう。

万が一、労務担当者がインフルエンザで欠勤をしても、他のメンバーで対応をカバーできるというメリットもあるため、就業規則に記載しておくことをおすすめします。

 

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