あなたの会社には、休職制度がありますか?

■休職制度は、業務外でケガや病気になり、その回復への専念が必要なときに会社が労働義務を免除するもの
■義務ではないので、会社が任意でルールを作成できる

大きな会社には既にルールがあるはずですが、今まで休職者が出ていない小さな会社には、休職規定自体がないかも知れません。とはいえ会社の大小にかかわらず休職者が出る可能性は、十分にあり得ます。さらに日本社会全体での休職者の数は増えつつありますから、人事労務の担当者の悩みは増えるばかりです。

しかし、休職の「手続き」をこなすだけが、人事担当者の職務でしょうか。本来は、社員が心身ともに健康に会社に通える環境整備こそが、人事の役割なはず。そこで今回は「休職」という言葉が耳に入るたびにビクッとしてしまうあなたに向けて、会社の環境整備に関するコラムをお届けします。

うつ病だけではなく、休職者は増えている

まず休職が目に見えて増えてきた大きな理由に、うつ病などのメンタル系の疾患の顕在化があげられます。

厚生労働省の発表でも、以前に比べてメンタル系の疾患が増えているのが分かりますが、特に「うつ病」「認知症」の患者数は著しく増加。また、平成29年度にうつなどの精神疾患で休職した公立学校の教員数は5077人にもなり、2年ぶりに5千人を超えたと文部科学省が公表しています。

文部科学省|平成29年度公立学校教職員の人事行政状況調査について

しかし休職にはメンタル疾患以外にもさまざまな理由があります。不慮の事故やポジティブな理由での休職であれば、時期が過ぎたら復職してもらえる確率は高いでしょう。しかし休職理由の裏に、社員のネガティブな理由が隠されているのであれば、そのまま退職につながってしまうケースが多いはずです。

昔は表に出てこなかった労働トラブルが、外に出やすくなっているという理由もあるでしょう。メンタル疾患もそうですが、最近は労働環境に対して自己主張できる風潮が生まれ、SNSの発展なども相まって、「ものいう労働者」が増えつつあるからです。

 

社員をすり減らす、労働環境の悪化

休職者が増えている背景には、労働環境の改善が進んでいないことも一因です。最近になり「働き方改革」がうたわれるようになりましたが、現在でも労働環境がよいとはいえない現場は多く存在します。

労働環境が改善しない主要原因を3つあげてみましょう。

☑ 長時間労働が当たり前という認識が社内にある

未だに「長時間労働が当たり前」という認識の会社は多く、社員も「長時間労働をしなければならない」という考えを持っている人は数多くいます。もしくは上司が無理に残業を強いているようであれば、社員の心身はすり減ります。

☑ 残業代未払いの会社が多く存在する

長時間労働を強いられた上に、残業代を払わない会社であれば、社員の生活は成り立ちません。平均所得が下がっている中、働いた分の賃金すら受け取れなければ、その職場は決して安心・安全ではありません。

☑ 「マジメ」な社員が多い

マジメさはポジティブな面も持ちますが、「無理をしてでも命令に従う」「上司に逆らえない」という社員が多ければ、ブラックな会社のいいなりになり、追い込まれてしまうケースも。労使の力関係のバランスが激しく崩れているのであれば、労働環境は悪いといえるでしょう。

このような環境で働く社員が、心身を壊しやすいのは当たり前。休職の増加を嘆く前に、社員がポジティブに働ける環境をととのえる必要がありそうです。

労働環境の悪化について、記憶に新しいところでは、2015年の電通の悲しい事件がありますね。過労・パワハラなどにより新入社員の女性がうつ病になり、自殺してしまったというものです。そうなってしまってから対策を取っても、取り返しがつきません。このような事件を二度と起こさないためにも、最悪の事態になる前に、対策を講じる必要性が求められます。

会社はどう向き合うべきか

「休職者の増加にどう向き合うべきか?」についてですが、まず、人事担当者としては「隠しても仕方がない」と認識しましょう。

会社が努力をしても、休職者が出ることはあります。
また、休職者が出た場合には、正しい手続きが必要とされます。

そのため、「休職したい」と思い困っている社員のためにも、明確なルールを定めておくことをおすすめします。

このルールは「社員の見える場所」に置くことが大切です。いざとなったら正式な手続きに則って休職できる、という知識が社員にあれば、それだけでも安心できます。体調不良で追い詰められた社員が、休職について知りたくても、パワハラ上司に聞かないと手続きが分からない…というのは最悪な環境ですから。

そして、休職のルールを明確にし、周知することは

「社員からの、ギリギリ追い詰められてからの問い合わせが減る」
「急な休職を防ぐ」
「社員が安心して働ける環境をつくる」

というプラスの改善につながり、人事担当者の胃をキリキリさせる現場課題をかなり減らせるようになるでしょう。

休職に関するルールをつくるには

それでは、休職に関するルールづくりについて、決め方・手続きを再確認しましょう。

前提

■労働基準法で定められているわけではないので、会社でルールを定めてOK
■ルールについては、就業規則に記載する必要がある

もし、「休職者が出たが、口頭での手続き指示しかしていない」「就業規則に一応書いてはあるが、実情と変わっているので、勝手にルールを変えている」ということがあれば、早急に就業規則の修正が必要です。

休職期間の上限について

一般的には、最も多い休職期間の上限は6ヶ月超えから1年までとなっています。
中小企業では3〜6カ月の間に定めている会社も多くあります。

休職の条件

一般的に多いのは、以下のような条件です。

・本人からの私傷病の申し出
・医師からの診断書の提出
・勤務できない日が〇日以上継続する

会社が定めた「休職の条件」に当てはまらなくても、誰から見ても業務困難なレベルで調子が悪いのに、本人が認めずに休職を拒んだ場合、会社から休職命令ができると定めるケースもあります。また休職を認める前提として、有給を使い切った後に、1ヶ月程度の欠勤期間を経ることを条件とする会社も多いです。

 その他にも「休職願い」や「定期報告に関する誓約書」などの提出を定めてもよいでしょう。

休職の適用範囲

たとえば「正社員のみに限定」とした場合には、契約社員やパート等の非正規職員は休職することはできません。この場合には、欠勤扱いとなります。

休職中の連絡方法

休職者の状況把握の為に、最低でも月に1度の定期報告を求めると、ルールに定めておくことをおすすめします。

電話やメールでの報告よりも、「産業医の面談」と「定期報告」をセットで行う方が、よりスムーズにコミュニケーションを取ることが可能となります。

 

復帰後のイメージができないと、社員は安心して休めない

休職に入るときのルールが整備できたら、復職についても考えておく必要があります。

復帰後のイメージができないと、社員は安心して休めないからです。

休職してから復帰までの間、社員にコンタクトを取っていかないと、フェードアウトされてしまう可能性も高くなります。そのためには【復職する場合】と【復職できなかった場合】についても、ルールが必要になってきます。

下記を参考にルールを考えてみてください。

復職する場合

回復してきた場合には、休職中の報告書などを元に、会社の承認を経て復帰させるとよいでしょう。該当者には、以前と同じ「就業時間」や「業務内容」で問題ないか確認します。

1~2ヶ月ほどの一定期間は、残業の免除や短時間勤務を経ることも、スムーズな復帰につながるといえます。

復職できなかった場合

「休職期間が満了しても復職できない場合、自然退職とする」とルールに定めてある場合には、休職期間満了を持って退職となります。

もしこのことについて就業規則に記載がなく、復職もできない場合には、解雇扱いになります。解雇はトラブルになることも多いので、復職できなかった場合のルールについて、明確にしておくべきです。

休職中の給与と社会保険料

また給与・社会保険などについても、どうなるかについて伝えておくと、後日のトラブルを防げます。

給与について

多くの会社ではノーワークノーペイとして、給与は支給されません。ただし会社の賃金規程によるので、休職期間中も一定額を保障する会社もあります。また休職期間は、賞与や人事評価、退職金の算定では計算基礎の対象外とする会社が多いでしょう。

社会保険料について

休職期間中も会社に在籍しているので、社会保険料は免除されません。また、住民税もかかります。基本的に手取りはマイナスになるので、休業前に社員に説明したうえで、休職期間中の社会保険料・住民税については、下記のどちらにするかを選んでもらうと良いでしょう。

①    給与からまとめて徴収する
②    定期的に振込みをしてもらう

このように、相互で取り決めをしておくことは、とても大切です。

 関連記事|休職についての会社ルールの決め方は? 手続きの流れと給与・社会保険

人事担当者のメンタルも大切に

会社として大切なのは、調子の悪い社員が出てきても「見て見ぬふりをしないこと」と、該当社員を「追い込まないこと」。社員の状態がかなり悪くなってからの休職は、会社の評判を下げると同時に、最悪の場合には労災などのリスクもはらんでしまうからです。

このようにならないためにも、休職についてあらかじめ就業規則で定めておきましょう。ルールがあると手続きもスムーズです。そして何より、「後手後手の休職対応」に悩まされることが減ります。

「聞いてなかった!」
「もっと早く相談してくれたら…」
という人事担当者の想いを伝えるため、相談窓口を設置するという手もあるでしょう。

とにかく煩雑な人事労務の仕事。社員のネガティブな休職は、人事担当者のメンタも削っていきますから、ご自身を守るため、トラブルを避けるためにも、休職のルール化と周知活動に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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