2020年9月1日、労災保険法が改正され、2か所以上の企業と契約をしている人の労災給付は、全就業先の賃金を合算した額に基づいて計算されるようになりました。

8月までは、災害が発生した勤務先の賃金のみで、休業補償などの給付額が決まっていました。9月1日以降は、契約しているすべての企業の賃金を合算して、休業補償の給付額が決まります。副業・兼業をする人の急増が背景にもなっているこの改正、複数勤務のスタッフを雇用している企業は特に知っておく必要があるでしょう。

9月1日より労災保険の書類も変更になっています。手続きをするときは気を付けてください。

労災保険の保険給付の種類が増えました

以下、①②③はこれまでと同じですが、④が新設されました。


①業務災害に関する保険給付
業務上の病気やケガ、障害、死亡に対して支給されます。

②通勤災害に関する保険給付
通勤による病気やケガ、障害、死亡に対して支給されます。

③二次健康診断等給付
定期健康診断で、再検査が必要なときに受ける検査や保険指導です。

④複数業務要因災害に関する保険給付【新設】
2か所以上の企業で勤務している従業員の業務上の病気やケガ、障害、死亡に対して支給されます。


①と④の内容は似ていますが、勤務している企業の数が違います。
①は1か所のみ勤務している従業員が対象、④は2か所以上勤務している従業員が対象です。

④の複数業務要因災害に関する保険給付の計算方法について

④の複数業務要因災害に関する保険給付を計算するとき、以下の給付の金額は、「勤務しているすべての企業」からの賃金を合算して計算されます。

・休業(補償)給付
労災で休業しているときの、休業中の賃金補償
・障害(補償)給付
労災で障害が残ったときに支給される年金など
・遺族(補償)給付
労災で死亡した従業員の遺族に支給される年金など 

ただし、合算されるのは2020年9月1日以降に起きた災害になります。

【例】
2社に勤務している人が、以下の賃金を受け取っています。
A社から:月額賃金9万円
B社から:月額賃金24万円
労災が起きた日を含まない、直近3か月の歴日数は90日です。

A社で労災が起きた場合の、休業補償の計算方法をみていきましょう。

2020年8月31日まで(改正前)※給付の計算の元となるのはA社の賃金のみ
① 休業補償の計算の基礎となる日額:A社賃金 9万円✕3か月÷90日=3,000円
② 1日当たりの休業補償の金額:1日の賃金3,000円✕休業補償率80%=2,400円
A社で労災事故が起きたときは、改正前の休業補償額は2,400円だった

2020年9月1日から(改正後)※給付の計算の元となるのは、2社の賃金
① 休業補償などの計算の基礎となる日額:
A社賃金9万円✕3か月÷90日=3,000円
B社賃金24万円✕3か月÷90日=8,000円
2社合計で11,000円
② 1日当たりの休業補償の金額:1日の賃金11,000円✕休業補償率80%=8,800円
A社で労災事故が起きたときは、A社とB社の賃金を合わせるため、休業補償は8,800円となる

業務中のケガは、企業に責任があるとみなされる

業務上のケガなどのとき、企業には休業補償の義務や解雇制限がかかると労働基準法で定められています。つまりケガをして働けないときはきちんと休業補償を行い、安易に解雇してはいけないということです。

労災保険の休業補償は、休業した4日目から給付されます。最初の3日間の休業については、企業が補償をしなければいけません。また休業している間とその後30日間は、解雇はできません。業務中のケガなどは、企業に責任があると考えるからです。

ただし通勤途中のケガなどのときは本人の責任でもあるため、3日間の休業補償の支払いは不要です。解雇制限もありません。

複数の企業で勤務する場合の、対応範囲は?

自社で起きた事故で、副業として勤務している従業員がケガをするケースもあれば、自社の正社員が副業先の企業でケガをしてしまうこともあり得ます。以下、業務中のケガなどのケースについて対応範囲をまとめてみました。

  労災事故が
起きた企業(A社)
労災事故が
起きていない企業(B社)
労災の事故となるのか なる ならない
3日間の休業補償 必要 不要
解雇制限 あり なし
私傷病による休業扱いになる ならない なる
社会保険料の免除 なし なし
傷病手当金 なし なし

 今回の改正は、あくまでも労災保険の給付額を計算するときに関係する改正です。2か所で勤務しているからといって、労災の責任が2か所の企業に平等にあるわけではありません。責任が問われるのは、あくまで労災の事故が起きた企業のみになります。従って労災が起きていない企業(B社)の休業は、「私傷病による休業」または「欠勤」扱いになります。

手続きを理解して、正しく申請できるようサポートを

上記の労災保険の手続きは、誰が行うべきでしょう。

労災保険の申請は、本来は従業員本人が行うものです。しかしこれまでは、企業が行うことも多かったのではないでしょうか。労災保険の手続きには、賃金台帳や出勤簿の提出、企業の証明書などが必要で、本人では分からないことも多いからです。

ただし今回の改正で、複数の企業から証明書が必要となれば、本人がせざるを得ないケースも出てきます。副業・兼業をしている従業員が労災事故にあったときは、すべての企業から書類を取り寄せ、労働基準監督署に申請ができるようにサポートしてあげてください。

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