毎日残業をしている皆さん!会社からしっかりと残業代を払ってもらっていますか?
また、管理職の皆さん!社員への残業代の支払いは、正当でしょうか?

ときに労働問題としてニュースを賑わす「未払い残業代」。請求の時効が何年になるか、議論されていましたが、2020年1月10に厚生労働省からいったんの答えが発表されました。

それまでは、請求の時効は2年から5年に延びるといわれていましたが、今回発表されたガイドラインでは「2020年4月1日からの時効は3年」が示されました。労務担当者、経営者は知っておくべき法改正です。

不当な残業をさせられていた方にとっては朗報ですが、残業代をあいまいにしてきた会社にとっては、経営の根幹を揺るがす「一大事」に発展するかも知れません。

未払い残業代の時効が、2年から3年へ変更になった

未払い残業代とは、本来支払うべき残業代のうち、支払っていない残業代を指します。

残業代を支払う必要があることがわかっているものの、会社の業績が悪くて支払えない…。計算方ミスに気づいたが、未払い分を支払えていない…。など、さまざまな事情があるでしょう。しかし未払い残業代を支払わずに放置していると、対象となる社員から請求される場合があります。

これまで、未払い残業代は、2年前までさかのぼれました。

これが2020年4月の民法改正により、賃金や報酬の請求権が5年と定められることにあわせ、労働基準法における未払い残業代の支払い時効も5年にするという議論が進められていました。しかし書類の保存期間の問題や、企業の負担を考え、しばらくの間は3年で運用されることとなったのです。

いったん3年にはなりましたが、いつかは不明ですが、5年になるのは決まっています。しかし書類の保存期間、組織再編などの動きが早いため5年前を知る者がおらず、正当な支払いができないケースが出てくることなどを勘案すると、2020年4月の民法改正に合わせての改正は難しいとされ、「時効は3年」という猶予案が出た、ということです。

労基法(特別法)が、民法(一般法)を下回るというのはあってはならないという考え方から、改正の動きが進むのは今後も変わらないでしょう。

延長されるのは、残業代だけではなく「賃金すべて」

うしろめたい気持ちがある会社としては、ヒヤヒヤする流れですが、時効に達した分の未払い残業代の支払い義務が発生するわけではありません。たとえば、2014年9月の未払い残業代の時効は2016年9月です。この場合、2019年9月の時点から5年をさかのぼり、2014年9月の未払い残業代の請求権が復活するわけではないのです。

時効については以下2点で検討されています。

民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法
賃金等請求権の特殊性等も踏まえ、賃金等の債権の発生日を基準に考える方法

➀だと無期雇用の人が、旧法の適用を長く受けてします。そして②だと、法改正が適用された日以降の給与からが対象になるということから、メリット・デメリットが大きく、これから労働政策審議会で慎重に検討されていくでしょう。

また、残業代だけではなく、休日手当や深夜手当など、賃金すべての時効が3年に延長されるという点も、覚えておく方がよいでしょう。

全従業員から未払い残業代を請求される前に、確認を!

未払い残業代は、労働トラブルの中でも大きな問題となっているため、会社としては問題解決に向けて早い段階で支払うことが大切です。また、未払い残業代の請求をサポートする弁護士や情報サイトなども多く、法的知識に乏しくても請求に乗り出せるようになっています。

未払い残業代が明るみになると、会社の評判が下がる恐れもありますし、支払うべき残業代をしっかり支払っているつもりでも、専門家が見ると正しく計算されていないケースが非常に多いのです。

一番怖いのは、「そもそもの残業代の計算方法を間違えている」というケース。それでは、全社員の残業代に未払い分が出てしまいます。明るみになれば、全社員から未払い分を請求される心配もあるでしょう。このような事態を防ぐためにも、正しい残業代の計算方法を確認しておくことをおすすめします。

残業代の計算方法

残業代の計算方法は、「残業時間×残業単価」です。
残業時間と残業単価について、詳しくみていきましょう。

残業時間の定義

まずは、残業時間の定義を確認していきましょう。残業時間とは、所定労働時間を超えて働いた時間を指します。残業と言えば、1日8時間、週40時間以上働いた分を指すと思われがちですが、それ以下でも所定労働時間を超えた分は残業扱いとなるのです。

例えば、1日6時間、週30時間が所定労働時間の場合は、1日7時間働いた時点で1時間分の残業代が発生します。ただし、1日8時間、週40時間を超えていない分については、割増はありません。それ以上の労働については、法定外残業の扱いとなり、割増賃金が発生します。

また、本来の休日と出勤日を予め入れ替える振替休日の場合でも、週40時間を超えている分については、割増賃金の支払いが必要です。そして、代休の場合には休日出勤扱いとなるため、割増賃金が発生します。

残業単価の算出方法

残業単価は、「支給額(基本給+各種手当)/1か月あたりの平均所定労働時間×割増率」で算出します。支給額からは、下記の手当を差し引いて問題ありません。

家族手当  /  通勤手当  /  別居手当  /  子女教育手当  /  住宅手当  /  1か月を超える期間ごとに支払われる賃金  /  臨時に支払われた賃金

ただし、実態を伴っていなかったり、一律で支払われていたりするケースでは、残業代の時間単価の計算から除外が認められない場合があります。

所定労働時間の算出方法

続いて所定労働時間の算出方法をみていきましょう。1か月の平均所定労働時間を出す必要がありますが、大体170時間など根拠なく適当に決めているケースがあります。この時点で残業代を正しく計算できなくなるため注意が必要です。

割増率については、以下のとおりとなっています。

1日8時間、週40時間を超えた分・・・・25%以上
・1か月45時間、1年350時間等を超えたとき・・・・25%以上
・残業時間が1か月60時間を超えたとき・・・・50%以上(中小企業は当面の間は免除)
・週1日の法定休日に勤務させた・・・・35%以上
・22時~5時までの勤務・・・・25%以上

変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制は計算方法が異なるので注意しましょう。変形労働時間制とフレックスタイム制では、法定労働時間を超えた分には残業代の支払いが必要です。裁量労働制は、決められた範囲でのみ残業代が発生します。

固定残業の計算にも注意!

固定残業手当を支給している場合は、固定残業手当に含まれている時間数を超えて働いた分に残業代が発生します。

そもそもの固定残業のルールを間違えていた場合、非常に多くの未払い残業代が発生するため、しっかり確認しておきましょう。固定残業のルールは次のとおりです。

①固定残業手当部分と基本給/他の手当が分離されている
②固定残業手当に含まれる残業時間数が明示されている
③固定残業手当を超える残業が発生したらその分を支払う

上記をすべて満たして初めて、固定残業手当の効力が発生します。

働き方改革の流れ、正しく乗らないとリスクが増大

未払い残業代の発生を防ぐことは、会社として当然の責務といえます。未払い残業代がないのが普通で、未払い残業代があることはブラック企業の烙印を押されることになりかねません。近年では、働き方改革の声がさまざまな会社で挙がっており、未払い残業代をなくすことは当然として、社員が働きやすい環境を整えることが望ましいとされています。

経費を削減できるだけではなく、従業員のモチベーションが高まるため、企業の収益性や安定性が高まるでしょう。また、働き方改革を推進していることを世間に伝えれば、優秀な人材の確保にも繋がります。今、会社が存在できているのは、社員のおかげということを忘れず、残業代の正しい計算方法を押さえ、必要に応じて未払い分を支払い、会社のリスクを回避しましょう。

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