働く人が「1円でもお給料が多いと嬉しい」と思うのに対し、会社側は「1円でも人件費をおさえたい」と願っています。仕事をした分の報酬支払は、会社側の義務。しかしルールを決めておかないと、不正や不公平の温床にもなってしまうため、公的なルールが定められています。

最低賃金のニュースがメディアを賑わすのは、毎年秋ごろ。このコラムでは、最低賃金を「いつ・だれが・どのように」決めるのかと、最低賃金が上がるにつれて会社に求められる、人材育成・生産性向上への意識向上についてまとめています。

誰が最低賃金を決めるのか

最低賃金は、それぞれ同じ人数の、立場の異なる以下の3者が集まり決められます。

・公益代表
・労働者代表
・使用者代表

上記が属する「最低賃金審議会」で議論が繰り広げられ、最終的には、都道府県労働局長が決定します。

もし各代表の人数に差があれば、数による有利不利が生じます。たとえば使用者代表が最も多ければ、最低賃金を引き下げる方向へ話が進むかもしれません。逆に、労働者代表が多ければ、最低賃金を引き上げる方向へ話を引っ張る可能性があります。

最低賃金は、「とりあえず上げればいい」ものでもありません。最低賃金を上げすぎると会社は必要な人数の人材確保が困難になり、双方にとって不利益となりますし、国の財政にも関係してくるため、徹底した議論が必要なのです。

最低賃金を決める方法

最低賃金を決めるときには、参考資料や根拠となるデータが必要です。世論に左右されたり、単なるカンで決めることは認められていません。現在では、中央最低賃金審議会から提示される最低賃金の引き上げ額の目安を参考にしています。

ただし、引き上げ額の目安だけを参考にするのではなく、各都道府県の地方最低賃金審議会にて、各地域の実情を確認し合い、最低賃金の引き上げ額が妥当かどうかを審議します。

これは、「このぐらいの引き上げ額で問題ない」と思っていても、地域の実情を踏まえると、さらに引き上げなければならない場合があるためです。このような審議と答申を経て、異議申し出に関する手続き後に、都道府県労働局長が最低賃金を決定します。

最低賃金は、どこまで上がる?

2017年3月28日に、働き方改革実現会議にて「働き方改革実行計画」が立案されました。その内容に基づき、年率3%程度を目途に最低賃金を引き上げていく方針です。この年率3%程度というのは確約ではなく、各目GDP成長率に配慮しつつ決定されます。

GDPが上がれば、それだけ最低賃金を上げることが可能ですが、逆に下がれば最低賃金の引き上げ率を抑えなければなりません。賃金だけが高く生産性が低い社会にならないよう、バランスを取らなくてはいけません。

また、この最賃金の引き上げにより、全国加重平均が1,000円になるよう目指しています。これは、簡単に達成できることではなく、全国の中小企業や小規模事業者の協力が必要です。

最低賃金の変更の時期っていつ?

最低賃金の変更時期は、その種類で異なります。最低賃金には、次の2つがあります。


・地域別最低賃金
職種や産業に関係なく、その地域の事業所で働く人全員に対して適用される最低賃金。都道府県ごとに定められています。
・特定最低賃金
特定の産業で「会社の所在地に該当する地域別最低賃金よりも高い金額を最低賃金とすることが必要だ」と最低賃金審議会が認めた場合のみ、定められるものです。同じ産業でも、都道府県によって差があります。


地域別最低賃金は毎年10月、特定最低賃金は毎年12月に変更される傾向があります。

特定最低賃金がニュースになることはあまりありませんが、地域別最低賃金は、大きく取り上げられます。2019年10月1日には、東京都において985円であった最低賃金が28円引上げ(引上げ率2.84%)られ、1,013円に改正されました。

最低賃金と生産性向上の深い関係

最低賃金アップをそのまま受け入れているだけでは、会社側の負担が増えるばかり。そのため、支払った賃金に見合うだけの「生産性」を向上させる必要があります。

「日本は生産性が低い国」といわれますが、生産性と最低賃金の引上げには、深い関係があります。有識者からも、日本経済の再生のためには、最低賃金を引き上げて生産性を向上させるしか方法はない、という意見が出ています。

会社としても「最低賃金が上がった!人件費が増えて、これ以上人を増やせない」「現場が疲弊して、休職や退職が続く!」「生産性どころか、人事管理に追われてしまう」という負のループは避けたいはず。

それよりも「最低賃金は上がったけど、優秀な人材が定着してくれる」「時給を上げたらバイトが辞めなくなって、採用コストも下がった」「結果的に生産性が上がって、業績も上向いた!」という、いい環境をととのえることこそ、人事担当者の使命でしょう。

GDPが上がっているといっても、逆に生産性が落ちている会社がたくさん存在するのも事実。そのような会社を増やさないために、国も積極支援をしています。

生産性アップのための、厚生労働省の支援事業

厚生労働省の支援事業をいくつかご紹介します。

キャリアアップ助成金

非正規雇用者の、社内での昇進を促すための助成金です。非正規雇用から正規雇用への転換、賃金の改定、法律で定められている健康診断以外の健康診断の規定と適用、正社員と共通した諸手当の新設、社会保険の適用拡大に向けて基本給の増額など、さまざまなケースで助成金を受け取れます。

非正規雇用者は、経験を積めば正社員と変わらないスキルを習得できるケースもあるため、待遇改善や正規雇用への転換などを前向きに検討しましょう。

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)

生産性の向上を目的として、人事評価と賃金制度を改善する際に受けられる支援事業です。制度整備助成と目標達成助成があり、それぞれ条件が定められています。たとえば、制度整備助成を受ける条件は、人事評価制度等整備計画を作成したうえで、管轄の労働局の認定を受けなければなりません。

また、目標達成助成では、人事評価制度の整備と実施の結果、その月の前月と比べて1年後の賃金が2%以上増加している必要があります。このように厳密な条件が定められていますが、成功すれば制度整備助成は50万円、目標達成助成は80万円の支援を受けられます。

人材確保等支援助成金(設備改善等支援コース)

雇用管理の改善を目的とした取り組みに対して助成を受けられます。雇用管理改善計画を作成し、必要な設備投資をしたうえで、実際に雇用管理の改善と生産性の向上を実現できれば、助成金が支払われます。

参考|厚生労働省 各種助成金・奨励金等の制度

人事担当者の役割は、賃金アップ以上の「会社の価値アップ」

助成金は、正しくつかえばメリットが大きい制度。労働生産性の向上が認められた場合には、雇用関係の助成金が割り増しされます。具体的な要件が定められているため、目標を達成できるように綿密な計画を立てることが大切です。

最低賃金の引き上げは、労働者にとっては給与アップ、会社にとっては生産性と収益アップの取り組みのキッカケになり得ます。

そして人事担当者は、最低賃金引き上げを単に「給与額の変更手続き」のためにあると捉えず、会社の基礎となる「社員と給与」の関係性を見直し、双方がより会社の価値を上げられるような仕組みをととのえる、重要なチャンスと考えてみてはいかがでしょう。

そのチャンスをうまく利用して、会社の基礎力を高めることができれば、人事担当者としてのあなたの評価や給与もアップする可能性がありますよ!

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