2022年10月、社会保険の加入対象となる企業について、厚生年金保険の被保険者数が501人以上から101人以上の企業に拡大されました。
さらに2024年10月からは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業に適用拡大されます。

これに伴い、これまで扶養の範囲内(年収130万円未満)で働いていたパート・アルバイトなどの短時間労働者も社会保険に加入しなければならないケースがでてきます。
段階的な法改正が続いているため、2024年10月から適用される社会保険の適用拡大についてを整理します。

※「従業員数」とは現在の社会保険の加入対象者の人数です。

適用拡大の時期と対象企業

社会保険の適用拡大については、2016年10月から厚生年金保険の被保険者数が501人以上の企業において実施されました。
その後、2020年5月29日に年金制度改正法が成立したことにより、パート・アルバイトでも要件を満たす従業員は社会保険の被保険者となり、さらに適用範囲が拡大されることとなりました。

【適用拡大の時期と対象企業】

2022年10月1日以降:被保険者数が101人以上の企業
2024年10月1日以降:被保険者数が51人以上の企業

2024年10月改正後、社会保険に加入しなければならないパート・アルバイト

社会保険の加入対象者は、以下の①~③のいずれかに該当する者と法令で定められています。

①フルタイムの従業員
②週の所定労働時間(※1)および月の所定労働日数(※2)がフルタイムの3/4以上の従業員
③上記②の時間数または日数が3/4未満であるが、一定の要件を満たす従業員
※1「所定労働時間」:雇用契約で企業と従業員のあいだで決めている労働時間
※2「所定労働日数」:雇用契約で企業と従業員のあいだで決めている勤務日数

上記③の「一定の要件」について、社会保険の適用拡大に伴い、要件が緩和されました。
2024年10月以降、パート・アルバイト全員が社会保険に加入となるわけではありません。パート・アルバイトなどの短時間労働者で、対象となる従業員は以下のすべてを満たす方です。

1 一定の規模以上の企業に勤務している
2 週の所定労働時間が20時間以上
3 継続して2か月を超えて雇用の見込みがある
4 所定内賃金の月額が88,000円以上
5 学生ではない

1の「一定の規模」とは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です。

2と3の目安は、雇用保険に加入しているかどうかです(雇用保険の加入要件は「週の所定労働時間が20時間以上であること」と「31日以上の雇用が見込まれること」です)。

4の「所定内賃金」とは、基本給および諸手当の合計額のことで、以下の賃金は含まれません。

・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
・残業や深夜労働、休日出勤に対して支払われる賃金(割増賃金など)
・最低賃金の計算に含まれない賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当など)

5について、大学や高校、専修学校、各種学校などの学生は対象外です。
ただし、以下のいずれかに該当する学生は被保険者になります。
・卒業前に就職し、卒業後も同じ事業所に勤務予定の学生(卒業見込証明書を有すること)
・休学中の学生
・大学の夜間学部や高校の夜間定時制などの学生

パート・アルバイトに社会保険を適用する理由

社会保険の加入条件の拡大は、パート・アルバイトなどの短時間労働者の将来の所得保障や働きやすさの向上を目指すためです。
また、勤務する企業規模に基づいて社会保険に加入できる要件が異なることは不合理であるため、段階的に企業規模の範囲を拡大することとなりました。

社会保険に加入したときには、以下のような保障を受けることができます。

傷病手当金:業務外の理由によるケガや病気で仕事を休み、給与が支払われなかったときに支給される
出産手当金:出産のために仕事を休み、産前産後休業中に給与が支払われなかったときに支給される
老齢年金:将来、年金を受給するときに厚生年金(いわゆる「2階建て」の部分)が上乗せされる
障害年金:ケガや病気で障害等級3級以上の障害状態と認定がされた場合、厚生年金が支給される(国民年金は2級以上から支給)
遺族年金:被保険者が亡くなったときに、遺族に対して厚生年金が支給される(要件あり)

このように、パート・アルバイトであっても、フルタイムの従業員と同じような手当金や年金のメリットが生まれます。
多様な働き方を受け入れ、女性や高齢者の働きやすさを後押しする施策として注目を浴びています。

企業における被保険者数の確認

対象企業となるかどうかは、厚生年金保険の被保険者数で決まります。以下を参考に、正しく数えるようにしましょう。

NGのカウント方法
フルタイムで働く正社員やパート・アルバイトなど、企業が常時使用するすべての従業員をカウント
OKのカウント方法

厚生年金保険の被保険者数をカウント(適用拡大の対象となる短時間労働者や、70歳以上で健康保険のみ加入している従業員は含めません)。

注意点は他にもあります。
法人は、法人番号が同じ事業所の厚生年金保険の被保険者数を合計し、個人事業所はそれぞれの事業所ごとに、厚生年金保険の被保険者数を確認しなければなりません。
また、毎月の従業員の人数に変動がある場合、「直近12か月のうち6か月以上、厚生年金保険の被保険者数が51人以上となることが見込まれる」ときは適用対象となることを覚えておきましょう。
これは、適用対象となった月以降に、厚生年金保険の被保険者数が適用対象者数を下回ったとしても、原則として適用されるということです。

従業員に説明すべきこと

自社が適用企業であることを確認したら、対象となるパート・アルバイトの従業員を確認しましょう。
対象者には、今後、社会保険に加入しなければならないことを早めに説明する必要があります。

社会保険への加入にあたっては、従業員から「手取りが減るのではないか」という心配の声が出るかもしれません。
しかし、基本的には社会保険加入のメリットは大きいものです。再度の記載となりますが、以下のような社会保障を受けることができるようになります。

傷病手当金:業務外の理由によるケガや病気で仕事を休み、給与が支払われなかったときに支給される
出産手当金:出産のために仕事を休み、産前産後休業中に給与が支払われなかったときに支給される
老齢年金:将来、年金を受給するときに厚生年金(いわゆる「2階建て」の部分)が上乗せされる
障害年金:ケガや病気で障害等級3級以上の障害状態と認定がされた場合、厚生年金が支給される(国民年金は2級以上から支給)
遺族年金:被保険者が亡くなったときに、遺族に対して厚生年金が支給される(要件あり)

上記に加え、扶養範囲の上限を超えて働くことが可能であれば、収入も増えていきます。
労務担当者は、社会保険料の納付以上にメリットが生まれることを従業員に適切に説明しましょう。
そのうえで、今後の働き方や勤務時間などの労働条件について話し合いを進めることをおすすめします。

社会保険の加入の拡大に伴い、企業が負担する社会保険料も増加します。
その増加分を早い段階で確認し、採用計画などの見直しが必要であれば検討してみましょう。

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