雇用保険に加入して1年勤務した直後に産前産後休業を開始した従業員は、出産日のタイミングによっては育児休業給付の受給要件を満たさなくなるケースがありました。この不具合を解消するため、2021年9月1日より雇用保険法施行規則の一部が改正されました。
育児休業給付金のおさらい
育児休業給付金の対象者は、雇用保険に加入している従業員です。産後56日以後、育児休業を取得している期間中で給与が一定以上支払われなくなったときに、ハローワークに申請することで給付金を受け取れます。
給付金の支給額は、「育児休業開始時賃金月額証明書」をもとに、休業開始前6か月間の給与の総支給額を180日で割った額を休業を開始時点の賃金日額として算出します。
その後、以下の給付率を乗じて給付します。
【育児休業を開始してから180日まで】休業開始時点の賃金日額の67%
【育児休業を開始して180日以降】休業開始時点の賃金日額の50%
給付金は子どもの1歳の誕生日の前々日まで受給することができ、1歳の誕生日に保育園に入れないなど延長の要件を満たすときは、最大2歳の誕生日の前々日まで受給が可能です。
育児休業給付の被保険者期間の要件 改正前と改正後
育児休業給付金は、育児休業を開始する前2年間に12か月以上の被保険者期間を必要としています。育児休業給付金の1か月とは、育児休業開始日の前日から過去に遡って1か月ごとに区切ったひと月をいいます。
【現行】
育児休業開始日を起算として、育児休業開始日より前2年間に賃金支払基礎日数(出勤日、年次有給休暇など)が11日以上(※1)を満たす月が12か月以上あること。
【改正後】
被保険者期間において現行の要件を満たさないときは、産前休業開始日等(※2)を起算として、産前休業開始日より前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上を満たす月が12か月以上ある場合には、育児休業給付の支給のための被保険者期間要件を満たすものとする。
※1
11日以上の月が12か月ないときは、1か月の賃金支払基礎となった勤務時間数が80時間以上の月を1か月として算定します。
※2
法令等による産前休業を開始する日(出産予定日の42日前)より前に出産したときは、子どもの誕生日の翌日を起算とします。また、主治医や助産師からの保健指導により、法令等による産前休業を開始する日より前に休業をするように指示があったときは、主治医や助産師からの指示により休業を開始した日を起算とします。
要件変更のタイミング
今回の改正は、2021年9月1日施行のものです。そのため2021年9月1日以降に育児休業を開始する人から、対象になります。雇用保険に加入して1年勤務した直後に産前産後休業を開始した人で、9月1日以降に育児休業を開始した従業員について、現行の被保険者期間の要件を満たさないときは、改正後の要件を満たすか確認をしてください。
【例】
就職(雇用保険加入日):2021年4月1日
出産日:2022年4月30日
産前産後休業:2022年4月5日~2022年6月25日
育児休業:2022年6月26日~
上記のケースをもとに、現行と改正後を見比べてみます。
(引用)厚生労働省リーフレット『令和3年9月1日から、育児休業給付に関する 被保険者期間の要件を一部変更します 』
【上記図を解説:現行(受給要件を満たさない)】
育児休業等を開始した日を育児休業開始日とします。上記のケースでは、6月26日(育休開始)を起算とし過去に遡って1か月ごとにカウントします。以下の2点が要因となり、被保険者期間12か月を満たさず、受給要件を満たしません。
1:産前休業開始日を含む3月26日~4月25日(上記、図「現行」産休開始4月5日を挟む1か月)について、賃金支払基礎日数が11日以上とならず被保険者期間に含むことができない
2:就職(雇用保険加入日)となった4月1日~4月26日の期間についても、1か月に満たない期間となり上記の例では被保険者期間に1か月としてカウントできない
【上記図を解説:改正後(受給要件を満たす)】
現行制度で被保険者期間12か月を満たさないケースのときは、休業等を開始した日を産前休業開始日等として起算とします。上記のケースでは、4月5日(産休開始)を起算とし過去に遡って1か月ごとにカウントします。4月5日を起算とすることで、被保険者期間が12か月を満たします。
改正後の手続記載の変更点
育児休業給付の手続の届出時には、育児休業を開始した時点での賃金日額を算出するための育児休業開始時賃金月額証明書を作成する必要があります。
今回、改正後の方法によって被保険者期間を確認するときは、休業開始時賃金月額証明書の④および⑦の「休業等を開始した日」欄に産前休業開始日等を記載してください。それ以外の記載方法に変更はありません。
(引用)雇用保険事務手続きの手引き『第 11 章 育児休業給付について』
まとめ
出産や育児による労働者の離職を防ぐため、育児休業を取得しやすい雇用環境整備など、さまざまな改正が行われています。今回改正される育児休業給付の受給要件については、出産日のタイミングで受給要件を満たさなくなるケースを解消するために設けられたものです。
9月1日以降に取得する育児休業取得者について、現行制度で被保険者期間が足りないときは、今回のカウント方法により期間確認をしてください。