顧問社労士とは、会社と顧問契約を結んだ社会保険労務士を指します。

会社経営にはさまざまな知識が必要ですが、その中でも顧問社労士は、「会社の人事や労働に関すること」をサポートする存在です。顧問弁護士、顧問税理士ほど知名度がないかもしれませんが、働く場である会社にとって、労務管理は絶対に避けて通れません。今回は顧問社労士について、その価値や選び方などを解説してみます。

社会保険労務士(社労士)とは

社会保険労務士とは、一言でいえば「会社における人事・労務管理の専門家」です。人材採用から退職までに発生する社会保険や労働法関連の手続き、トラブル発生時の対処、そして年金受給の手続きまで、人事や労務管理に関する業務を担います。

社会保険労務士は国家資格であり、独占業務が定められています。労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成や、社会保険の手続書類の作成・提出の代行業務は、社会保険労務士だけが行えるものです。

社会保険、労働問題、年金業務に関する唯一の国家資格である社労士は、会社の数だけ需要があるといってもよいでしょう。2020年9月現在、43,000人強の社労士が全国社会保険労務士連合会に会員登録し、働いています。

顧問契約を結ばなくても依頼できること

社労士へは、従業員に関する各種書類作成や提出などの業務代行や、人事労務全般のコンサルティング業務を依頼することができます。必ずしも顧問契約が必要なわけではありません。まずはスポットでも依頼できる業務をまとめてみました。

社会保険・労働保険の代行業務(1号業務)

社労士の「独占業務」のひとつが、社会保険・労働保険の代行業務で、1号業務と呼ばれています。

具体的には健康保険、雇用保険、厚生年金など社会保険に該当する書類を作成し、管轄する行政官庁への提出を代行する業務を指します。その他助成金の申請なども該当します。社会保険に関する手続きミスが起きてしまうと、社員からの信頼損失に直結します。手続きのミスだけでなく、法令違反が起きないようにすることも大切です。

就業規則の作成(2号業務)

会社の働くルールを定めた就業規則の作成は、社労士の独占業務であり、社労士に依頼できる代表的な業務のひとつです。

10名以上の従業員がいる会社は、作成と労働基準監督署への届出が必要です。これは労働基準法で定められています。就業規則の作成は、法改正についても熟知している社労士に依頼してください。テンプレートを用いて自社で独自に作成することも可能ですが、自社の実態に則さず、法改正に対応しきれていないケースもあり、リスクが伴います。

法定帳簿書類の作成代行(2号業務)

労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成も社労士の独占業務であり、2号業務と呼ばれます。

労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類とは、労基法で整備・保管・管理が義務付けられている書類のことです。会社は法律に基づき、就業規則、労働者名簿、賃金台帳の三つを作成する必要があります。

当然ながら帳簿作成には専門知識や経験が求められます。正確性を欠いた書類では従業員が十分保護されず、信頼関係が保たれないでしょう。専門知識を有する社労士に任せれば、正確な帳簿作成が期待でき、従業員も安心して就業できます。

労務コンサルティング(3号業務)

3号業務と呼ばれる人事労務コンサルティングは、社労士の独占業務には該当しないものの、労務のスペシャリストとして社労士に期待されている役割のひとつです。

ここ数年、正社員という働き方以外に、派遣社員、契約社員、アルバイトといった就業形態の多様化が進みました。副業も盛んになり、働き方の選択肢は急激に増えています。それに伴い、労使トラブルは複雑化し、自社内で解決できないケースも増加しています。

その複雑化したトラブルを解決する役目を担うのが、労務の専門家である社労士です。解決だけではなく予防のためのアドバイスや、人事制度の構築などのニーズも増えてきました。そのため多くの事例を経験し、ノウハウを持つ社労士の存在がますます求められるようになっています。

紛争解決手続代理業務

社労士の中でも、特定社会保険労務士という資格保有者のみ対応できる業務が、紛争解決手続(ADR)代理業務です。

紛争解決手続きとは、労使間トラブルを裁判ではなく話し合いでの解決を図るものです。この手続きを特定社会保険労務士に任せることで、迅速かつ低額で労使間トラブルを解決に導いてくれます。

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社労士と顧問契約を結ぶ4つのメリット

上記の業務はその都度スポットで依頼することも可能ですが、毎回のコストや、自社の労務管理状況について正しく把握してもらう手間などを考えると、効率がよいとはいい切れません。ここからは社労士と顧問契約を結ぶメリットについて解説していきます。

メリット① 社内リソースの確保ができる

社会保険や労務手続きは経営者や担当者でも対応可能ですが、手間のかかる書類作成や提出などに労力を取られてしまえば、主要な業務に支障が出てしまいます。顧問社労士は専門家として効率的に労務手続を代行し、社内リソースを最適に配分・活用し、成長を後押ししてくれます。

顧問料がもったいないからと、手続き業務を自社で行う会社も多いでしょう。しかし、担当者の採用、育成、給与といった人件費やコストを考えると、社労士と顧問契約を行ったほうが安価で済む場合もあります。社長や役員が人事労務業務にかかりっきりになれば、会社の舵取りも不安定になります。

メリット② トラブルを未然に防ぐことができる

どんなに仲のよい会社でも、経営者と従業員の利害は完全一致しません。些細なことから労使トラブルに発展する可能性は、防ぎきれません。

顧問社労士がいることで、トラブルに発展する前に相談でき、未然の対策が可能になります。仮にトラブルに発展したあとでも、社員への対応などの相談が可能です。さらに特定社会保険労務士であれば、紛争解決手続きで話し合いで解決に導いてくれることも期待できます。経営層が無用なトラブルを避けられるだけではなく、従業員の安心にもつながります。

メリット③ 最新情報を受け取り、早期対策ができる

社会保険手続きや労務管理に関する最新情報を受け取れるのも、メリットの一つです。

たとえば法改正があったとき自社にどのような対応が必要か、いつまでに何をしないといけないかなどのキャッチアップを、専門家以外が行うのは至難の業です。自社にメリットのある助成金や、さまざまな雇用支援などの情報も、ピックアップするには相応のパワーが必要でしょう。

社労士は社会保険や労務手続きのプロフェッショナルです。当然ながら、関わる法律や各種情報に対し、常に高いアンテナを張っています。顧問社労士から提供される最新情報を活用すれば、自社に必要なことを、タイミングを外さずに行えるようになります。

メリット④ 健全な経営ができる

社労士と顧問契約を結ぶことで、下記のような健全な経営が可能になります。

・社員からの休暇や休業申請に対し、就業規則に基づいたスムーズな対応ができる。結果、社員満足度の向上や離職率の低下が期待できる
・労務管理のミスが減り、手間とリスクの削減ができる
・就業規則の整備や正しい労務管理はブランディングの役にも立ち、採用活動も有利になる
・さまざまな法改正に遅れず対応ができ、コンプライアンス強化や内部統制にもつながる
・必要に応じた助成金申請ができ、コスト削減につながる

「働く環境」がととのえば、経営陣も社員も安心して働ける、健全な組織体質を維持できるでしょう。顧問社労士はその助けになる存在です。

顧問社労士の価格相場

社会保険などの手続きと、簡単な労務まわりの法律相談を行う顧問契約では、顧問料は社員数によって大きく変わります。小規模の場合、相場として毎月20,000〜30,000円が相場となっているようです。

また、就業規則作成や修正、諸規程の作成などは別途費用が発生するのが一般的です。助成金申請は、着手金と成功報酬の組み合わせになっています。給与計算は、基本の顧問料の中に組み込まれているケースと、別途料金が発生するケースがあります。

顧問社労士を探すときのポイント

顧問社労士を探す代表的な方法は、インターネットでの検索です。多くの社労士事務所は公式サイトを持っており、サービス内容や強みが記載されています。1社ずつ社労士事務所を検索していくのもよいですし、社労士事務所を一括で検索するサービスを利用するのもありでしょう。

顧問社労士を探すときのポイントをいくつかご紹介します。

【自社の規模で探す】
ベンチャー企業、もしくは大企業であれば、特化事務所が存在します。会社規模によって必要な労務管理は異なるため、特にベンチャー企業は、規模や事業スピードを理解して対応してくれる社労士事務所を探してみることをおすすめします。どちらでもない中小企業は、以下を参考にしてください。

【業種に合わせて探す】
医療、建設、農業、派遣、福祉系のような業種であれば、その業界の内情に詳しい特化事務所も多く存在します。検索、もしくは同業からの紹介などが一般的です。

【都道府県(地域)別に探す】
顧問社労士に相談するとき、オンラインではなくリアルに訪問してほしいというニーズがあれば、近隣の社労士を探す必要があります。会社の属する都道府県に社労士会があれば、社労士会のホームぺージで検索することも可能です。

【助成金申請に強い社労士を探す】
助成金申請は経験が必要な業務です。顧問社労士へのニーズが明確に助成金である場合は、事例が豊富で、実直に対応してくれる社労士を探しましょう。

【発信内容から探す】
事務所の公式サイトのブログなどが、こまめに更新されているかどうかは大きな判断基準になります。法改正や労務情報について、正しい情報発信を行っている事務所を選ぶといいでしょう。

【コミュニケーション方法で探す】
自社のコミュニケーションがチャットワークやSlackなのに、メールでしか問合せ対応ができないと、ひと手間多くかかってしまいます。スムーズに連絡が取れる顧問社労士を探すには、自社のチャットツールに対応してくれるのかもポイントになります。

【社労士事務所の規模で探す】
大手事務所はノウハウも多く安心な面もある反面、経験の少ない担当者がつく可能性もあります。半面、小さな事務所は、所長が対応してくれることも多くあります。

顧問社労士を探す場合、最も重要なポイントは、自社のニーズと社労士の得意分野が合致しているかどうかです。仮に自社のニーズが就業規則の修正にあったとして、顧問契約を結んだ社労士の得意分野が助成金の申請手続きでは、自社のニーズに則した就業規則を作成するのは難しいでしょう。社労士を探す場合は、まず自社のニーズを明確にして、それを得意分野にする社労士を探すよう注意が必要です。

まとめ

「うちの会社はまだ小さいから、顧問社労士なんていらないよ」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、小さい会社だからこそ、時間と手間のかかる管理業務を顧問社労士に委ね、経営に集中することをおすすめします。

顧問社労士と並走して「よい会社」のブランディングが進めば、ブランディングの向上や採用力強化にもつながります。会社のルールと人に関する課題をお持ちであれば、一度、社会保険労務士にアクセスしてみてはいかがでしょうか。

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